宣言後 一

 自衛官の子は自衛官になると言われるが、斎島家の場合は父親が航空自衛隊で、息子は陸上自衛隊に就職した。斎島花は合コンの自己紹介でパイロットであることを告げられて、子供っぽい一面を好きになり、結婚して、育てた子どもが陸上自衛隊に就職して、自衛隊に複雑な想いを抱いていた。
 息子の透は父親と同じようにパイロットを志したのだが、視力が不適格とみなされてパイロットに慣れなかった。花はてっきりサラリーマンになってくれるものかと思っていたが、透が選んだのは陸上自衛隊だった。自衛官の子は自衛官。官舎のママ友からも散々に言われた呪文が、斎島家でも当てはまってしまった。私の両親の玉ねぎ畑を継ぐ未来もあったと思うのだが。
 そんなこんなで、特に陸上自衛隊のことは全く知らず、航空自衛隊と同じくらいに考えていた。それが四月一日、透はふらっと家に帰ってきて、子ども部屋でこもりっきりで何かを行っている。一日の夜、透とパパだけで酒を伴った密談がされて(これは今までも似たようなことがあったのだが)、パパから心配いらないと釘を刺されてしまった。仕事を辞めたのかしら。駐屯地で火事でもあったのかとも思ったが、ネットを調べる限りそんな様子もなかった。
 それが五日、ふらっとリビングに現れた透はテレビをつけて、家族に対して説明をした。
「幕府ってどういうことなの?昔じゃないの?ギャグ?ドッキリ?」
「ママ落ち着いて」パパが優しく言った。
「自衛隊装備は国家のものだぞ」パパが透に攻撃した。
「装備の大半は駐屯地にある。どうせすぐ警察に押収されるよ」
「一部は持ち出したのか?」
「ノーコメントで」透はまるで政治家になったようだった。
「落とし前はどうするんだ?最悪、陸上部隊が消えるぞ」
「そのリスクはある」
「そのリスクを負うべきものなのか?」
 透は返答を止めた。これはQRコードの想定問答集にも掲載されていないが、議論任務を続けてきて、しっかりと斎島三曹に根付いていた。
「リスクはある。今までのやり方を変えないと、イノベーションは生まれないんだ」
「イノベーションって…」パパが押し黙った。
「でも…こんなことして、逮捕されるんじゃないの。再就職とかできるの。自衛隊がなくなったら、うちのお金はどうなるの」花は涙を流しながら言った。
「すぐにケリをつけるよ」
 パパの携帯が鳴った。職場だけ着信メロディを変えていて、戦闘機の映画の主題歌のアップテンポが部屋に満ちた。透はきっと民間にはいかないだろう。視力が原因でパイロットになれなくて泣いた夜にも、花はうっすらと考えていた。透はパパと一緒に家を出て、パパと握手して別れた。

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