松雪泰子さんについて考える(30)映画『余命』

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*松雪泰子さんについて考える(51)「歌は語れ、セリフは歌え」*

松雪さん出演シーンの充実度:7点(/10点)
作品の面白さ:5点(/10点)
公開年:2009年
視聴方法:TSUTAYAディスカス
 
※以下、多少のネタバレを含みますが、決定的なオチや結末には触れないようしております。
 
子どもをお腹に授かった女性外科医(松雪泰子)が、乳がんの再発に見舞われる。出産か、がん治療か。どちらを選ぶか悩んだ末、子どもの命を選ぶ。そんな女性の葛藤と決断を描いた作品。頼りない夫(椎名桔平)の成長と夫婦愛が、もうひとつのテーマになっている。
 
物語全体の流れは悪くないと思うし、お涙頂戴の安い仕上がりに陥っているわけでもない。落ち着いた耳心地のよいBGMが、作品の重いテーマを中和しているし、奄美・加計呂麻島のロケーションも◎だ。
 
ただ、どうもちぐはぐに感じてしまう部分があるのは否めない。
 
大きいポイントとしては、離島へ仕事に行っていた夫(椎名)が、なぜ妻(松雪)に一切の連絡をしなかったのか。出産が無事に終わったというメールに対してすら返信をせず。これについては、劇中でその理由を妻(松雪)が尋ね、夫(椎名)も答えているが、それを聞いても釈然としない。
 
たしかに、物語上、離島で暮らして妻(松雪)との接触を断っていたことが、その後の夫(椎名)のある決断につながったというのは分かる。ただ、そのことと、返信も連絡も寄越さないこととの因果関係が釈然としない。妻(松雪)のことを溺愛しているにもかかわらずだ。
 
小さい疑問点もいくつかある。
 
・自分(松雪)が妊娠したことを、まだ安定期にもなっていないのに友人や知人に話すような軽はずみなことは、分別のついた年齢の大人なら普通はしないと思う。どれだけ仲が良い相手でも。
 
・しかも夫(椎名)と友人に同時に妊娠を打ち明けるなどということも、普通はしないだろう。
 
・ガン再発が分かって書き始めた日記は一体その後どうなったのか。
 
・他の患者に意地悪をする小児がん患者が登場するが、登場させる特別な意味があったのか。物語や登場人物に何か影響を与えた様子はない。
 
・夫(椎名)が酔った勢いで妻(松雪)とケンカするが、そのシーンが不自然にぶつ切りになる。次のシーンでは翌日になっているが、ケンカがどう決着したのか、つながりはない。
 
以上を総合的に考えると、ものすごく良い作品とまでは言い切れないのが残念なところ。
 
それに、タイトルの『余命』というのも、作品の趣旨と違わないだろうか。原作どおりのタイトルなのだから仕方ないとは思うが。
 
以上、作品の本筋はさておき、松雪さんのファンにとっては、以下のとおり見所が多い作品と言える。
 
・大型バイクを運転(松雪さん本人がバイク好きなのは有名だが、作中で運転するのは珍しい)
 
・夫(椎名)とのキスシーンは、いやらしい感じがなく、本当の夫婦っぽい自然な仕上がり。BGMと合っている。
 
・加計呂麻島での着物姿のシーン
 
なお、作品全体を通して葛藤や苦悩を表現するシーンが沢山登場するが、それらはあえて説明するまでもなく、どれもさすがの演技。クライマックスのシーンも含めて。
 
ところで、劇中で出産するシーンがあるのは、本作以外では2018年『半分、青い。』くらいだろうか。珍しい。
 
椎名桔平さんとの共演は、本作以降では2022年『祈りのカルテ』で13~14年ぶりに果たす。しかも、本作と同じく医者役。


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