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ドラマ・映画感想文(32)『新宿野戦病院』(最終回まで)

個人的評価:6点(/10点)
公式サイト:https://www.fujitv.co.jp/shinjuku-yasen/
 
※ネタバレを含みます。
 
第6話までの感想を投稿した際、若干下降気味と書いたが、その後も緩やかに下降し続けた。そんな印象。

家出状態だったマユ(伊東蒼)が医療に携わりたいという目標を見つけ看護師になったという展開を除き、特に心に残るエピソードが無かった。
 
なぜそう思ったか。原因を腑分けしてみよう。言うまでもなく個人的で勝手な感想です。
 
小ネタ・・・いつものクドカンらしい俗っぽくて下卑たノリ。「下ネタを堂々とやること」に自己陶酔しているような印象。1周回って笑えない。下ネタ以外も大して面白くなかった。クスっとくることが1話に1回あるかないか。笑いたいならバラエティ番組を観れば済む。くどい「シラキ」ネタには辟易。
 
社会風刺・・・医療保険制度、パンデミック、ネグレクト、貧困…。様々な問題を扱ったが、ググったら5分で分かる程度の浅い内容
 
ヨウコ(小池栄子)・・・岡山弁と英語のちゃんぽんにいつか慣れるかと思ったが、結局慣れずに終わった。小池さんには罪は無い。なぜ岡山弁である必要があったのか。きっと「なんとなく」以外に何もないだろうが、これこそ「あっ」と驚く伏線で回収してほしかった。岡山弁を喋ることによってキャラクターの魅力が引き立ったという印象も無い。
 
堀井しのぶ(塚地武雅)・・・肉体(戸籍)と性自認が異なるキャラクターが、どういう問題にぶつかり、周りがどう関わるか。それについてもっと深い洞察が得られるかと期待したが、これも肩透かしだった。同僚医師や病院スタッフはしのぶを異端視せず、普通に受け入れている。それはいいことだし、社会もそうあるべきだが、それならればなぜこのキャラクターを一話分割いてまで際立たせる必要があったのか。そればかりか「男か?女か?」と同僚がヒソヒソ話し合う姿を描いていたが、リテラシーの無い一部視聴者は同調して面白がってしまうのではないか。まさにそういう感覚こそ、この作品の否定する偏狭な因習的価値観のはずだが、それに自ら陥っている気がする。同じようなことを第6話のSMの話でも思った。
 
作品の主張・・・「目の前の命を助ける」「命の平等性」あたりが作品のコアメッセージだと思うが、これも「この作品ならでは」を感じさせるものが特段無かった。「当たり前」でしかない主張。聖まごころ病院はたしかに立派に取り組んだ。しかし、こういう病院は世の中に決して珍しくないし、訴えているのは至極「当たり前」の医師倫理であって、そこに驚きも感動も無い。
 
以上、とにかく何もかも浅く感じた。コメディと社会風刺を両立しているかのような高踏的で気取った姿勢が垣間見えた気がするが、両立どころかどちらも中途半端になっている。やるなら、コンプライアンスを気にせずバカバカしいどんちゃん騒ぎを大真面目にやるか、今の政治も医療もボロクソに全否定するくらいの反体制的気概が見たかった。
 
特に、最終回。官房副長官が匂わせた新たな補助金を啓介とヨウコが有難がる姿は、さすがフジテレビというか、右寄りの産経グループ然とした御用っぽさが漂っていて、このドラマの底が割れた気がして寒かった。ついでに医療保険制度も褒め称えていて閉口。
 
このように内容は寒心に堪えないものだったにも関わらず最終回まで観続けたのは、偏に役者のみなさんの奮闘ぶりによる。
 
小池栄子さんは本来の演技達者ぶりを発揮しづらい難役でなんとも言えなかったが、それでも演じ切ったことそれ自体がさすが。
 
仲野太賀さんは本当に素晴らしかったと思う。前回の投稿でも書いたが、軽佻浮薄な挙動も真っすぐ純真な表情も見事。ヘタレで情けない姿のワビサビは、観ていて病みつきになる。
 
高畑淳子さんはこういう軽いタッチもできるなんてさすが。典型的な、バタバタしているおばちゃん。どうしてこういう演技の引き出しすら持ち合わせているのだろう。
 
柄本明さん、余貴美子さん、生瀬勝久さんはいつもどおり軽妙洒脱。
 
岡部たかしさんの枯淡の演技・姿に、妙に心擽られる。なぜそう思うのかうまく自己分析できないが、『エルピス』(2020年、フジテレビ)のときにもそう感じたことを思い出す。

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