見出し画像

ドラマ・映画感想文(29)『新宿野戦病院』第6話まで

最終回までの感想こちら

公式サイト:https://www.fujitv.co.jp/shinjuku-yasen/

FODではオンエアより一週先の放送回まで配信しているが、この投稿は第6話(8/7放送分)までの感想。ネタバレありのためご注意ください。

第1話〜第2話のスタートダッシュは良かったが、若干下降気味に感じる。

日本の健康皆保険制度マイナ保険証の問題が、海外との比較で端的に指摘されている。格差社会の現実と、階級間に現存する命の軽重ジェンダー論も垣間見える。

そうした鋭い社会風刺が下卑た諧謔とハイブリッドされている点はいかにもクドカン(宮藤官九郎)らしいが、味付けが濃くて単調な感じは否めない。白木の呼び間違いのような小ネタも含めて、またそれか…と。

飽きがくるだけなら好みの問題だが、少し気になることがある。一部の性的嗜好や性産業従事者を小馬鹿にしているような描写が見受けられる点。

南舞(橋本愛)は迷えるホームレスや若者たちに親身に接するNPO法人スタッフ。その一方でSM嬢として働いてもいる。それを知った周りの人たちは喜色満面で秘密を共有する。

秘密がバレたことを知った南舞は、恥ずかしそうなそぶりを見せない。「恥ずべきことではない」という考えだと分かる。ここだけ見れば、これがこのドラマ本来の主張だとも思う。

しかし、第6話後半でSMの描写を面白おかしく差し込み、鞭打ちを受ける高峰啓三(生瀬勝久)とそれを見る享(仲野太賀)の対比でウケを狙っている。これは明らかにSM行為と、それを提供する人、サービスを受ける人をそれぞれ茶化しているだろう。性風俗産業の侮辱ともとれる。礼賛しろとは思わないが、少なくともこのドラマの筋とは相容れないだろう。

歌舞伎町に生きる様々な「少数派」の人たち(アウトサイダーと言っていいかどうか微妙だが)の実態と心情に光を照らそうとするのが本作だと思う。私たちが何気なく「普通」と思っている価値基準を懐疑し、その基準から外れているように見える人のことをちゃんと慮ってみようという試み。だから親ガチャでハズレをひき性被害さえ受けた家出少女を、パパ活の末に子を産んだ少女を、丹念に描いたのだろう。性別の明らかになっていない堀井しのぶ(塚地武雅)を登場させているのもその線と理解できる。

そんな本作が、SMを笑って(嗤って)いいのだろうか。SM嬢として働いていることを面白がる登場人物たちを肯定的に描いていいのだろうか。そういう「つい意識せず面白がってしまう」ことの問題性を提起する制作姿勢のはずが、ここに至って自家撞着に陥っているように見え、疑問を感じた。この作品が槍玉に上げる一昔前の価値観に他ならない。

もっと端的に言うと、SM趣味の人やSM嬢を傷つけていないか。そのような、決して多数派とは言えない人々に真摯に寄り添うドラマだったはずなのに。せめて、そういう問題提起をする人物が作中に登場すれば中和されていたと思う。

しかもそのSM描写とてステレオタイプ的。性癖というナイーブな領域を扱う場合、それこそ多様性に配慮すべきで一義的に描くべきものでないが、SMってこういうことでしょ?と一括りに捉える浅薄さが透けて見える。第4話で「そういう子」と一括りにラベリングする考え方の暴力性を訴えたシーンには感銘を受けたが、その「一括り」を当のドラマがしてしまっているようで残念。

あの描写を観るにつけ、このドラマの孤高とも言える啓蒙家的態度の底が割れた気がして、やや興醒め気味であるが、クドカンならではのあっと驚く見せ場がこの先に控えている期待感も捨てきれないため、引き続き最終回まで観てみよう。溜飲を下げさせてくれる仕掛けが待ち構えていることを願う。

それはさておき、出演俳優について感じたことを少し。

ヨウコ役の小池栄子さんは、キャラクターが濃すぎてなんとも言い難い。けれん味いっぱいの英語喋りが本人の演技力云々と結び付けられている記事が一部にあったが、ああいう演出でありキャラクターなのだから本人の技量と関係ないだろう。むしろ、普通にキレイに発音したらそれこそ違和感。たしかにちょっとくどい気もするが、それはあくまで脚本家と演出家の所産。もとより、小池栄子さんの演技力の高さ自体は疑う余地がない。

高峰享役の仲野太賀さんは、本作で最も生き生きしていると思う。軽佻浮薄な挙動も真っすぐ純真な表情も、手際よく演じ分けていて出色。

柄本明さん、余貴美子さん、高畑淳子さん、生瀬勝久さんらベテラン勢は本来の演技力を持て余している気がするが、やはり緩急自在でさすが。

横山勝幸役の岡部たかしさんは、見た目も含めてこういうキャラクターが妙に説得力ある。『エルピス』(2022年、フジテレビ)を思い出した。

最後に、堀井しのぶ役の塚地武雅さんは、放送前にHPの記載が発端でジェンダー論的に何か言われていたようだが、とりあえず性別の分からないキャラクターを好演。一歩間違えれば炎上しそうな薄氷を踏むキャラクターだが、最終回までにどうなるか。何らかの主張がこのキャラクターに当然潜んでいるはずで、見守りたい。

*このシリーズの投稿はこちら*

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?