見出し画像

【エースコンバット】新プロジェクト&新体制に思う事

ご無沙汰しております。


前回の記事投稿からほぼ2か月空いてしまったが、実は8月の前半に、不覚にも世間を騒がせているアレに感染してしまい、2週間ほど熱にうなされる日々を過ごしていた。(当然オケコンにも行けず、泣く泣くチケットを払い戻す結果になった)

幸い、筆者の場合は軽症で済み、後遺症も含め現在はほぼ回復した。何より、味覚障害などの生活への影響が大きい症状が極めて軽微で済んだのが幸運だった。

直近で特に外食などはしておらず、外出も週三の出勤と買い物以外は殆ど無かったし、もちろんマスクを付けて手洗いや消毒もこまめにしていたわけだが、それでも貰ってしまったので、それだけ今流行っている株の感染力が凄まじいという事なのだろう。皆様もどうかご用心いただきたい。


身の上話は程々にして本題に移る。

今回のテーマとなるのは、先日公開されたエースコンバットシリーズ25周年振り返り特番(以下)である。

7の売り上げが300万本を達成した事、歴代作品の開発秘話、7の幕間で使われたロケーションの紹介、7の今後の追加コンテンツや関連商品情報など盛りだくさんの内容だったが、中でも筆者を含め多くのファンを沸かせたのは「エースコンバットの新プロジェクトが進行中である」「チームの規模拡大に伴い新規スタッフを大々的に募集する」という二つの発表だろう。

新プロジェクトも勿論嬉しい報せだが、これは以前から開発者インタビューなどで予想できた範囲の情報だ。それよりも筆者が重要視するのは「エースコンバットの開発規模を拡大する」という開発チームの方針に、バンナムの経営層がGoサインを出した事だ。

これが10年前の、丁度AHの開発が進んでいた頃なら「でもエスコンって全然売れてないよね?人増やして大赤字になったら責任取れるの?」と言われて終わりだったに違いない。改めて、7の商業的成功がシリーズに残した物の大きさを実感した。

とはいえ、これまで筆者もTwitterやらNoteやらで折に触れて指摘してきた通り、7はファンの間で評価が分かれるタイトルであり、今の開発チームは次回作に向けた「宿題」を多く抱えている状態でもある。

ここでは、そんな開発チームの現状と課題を筆者なりに推察しつつ、主に体制面での今後の展望を述べていきたい。

※記事には確定的な事実だけでなく、筆者の推測が多分に含まれている点はご了承頂きたい

※ゲーム自体への要望については17の提言で別途行う予定なので、ここでは触れない点もご了承頂きたい

公式発表に見る新体制の全容

上記の特番にて公表された情報のうち、体制面に関する要点は以下の二点だ。

株式会社イルカ(ILCA,Inc)との業務提携を行い、2社体制での共同開発を今以上に促進する

・Project ACES(エースコンバット開発チーム)を広く増員する

ここで出てきた株式会社イルカは、シリーズ初期のタイトル(1~3)で開発の中心メンバーだった岩﨑拓矢氏が代表取締役を務める会社で、特番をご覧になればお分かりの通り7の開発にもガッツリ関わっている。

恐らくこれまではバンナムの下請け的なポジションだったイルカの役割を大幅に拡大し、これまでProject ACES本体が担ってきたコンセプト検討や基本仕様の策定といったより上流の工程にも参画してもらう、イルカを「第二のProject ACES」化する事がこの業務提携の趣旨であろうと推察される。

実際、イルカの採用ページではエンジニアやアーティストだけでなく、プロジェクトマネージャーやレベルデザイナーなどの、ゲーム開発の中心を担うであろう職種も多く募集している事から、将来的にはイルカ主導または単独での新規タイトル開発も視野に入れているものと思われる。

このような大胆な組織改革に至った経緯は、Project ACESブランドディレクターの河野一聡氏が特番内で直々に語っている。以下はその発言(42:45~)の一部を書き起こしたものだ。

"エースコンバットが25年続いてきて、(7の売り上げが)300万本を達成して、多くのお客様がいて、(その)お客様の好みも色々分かってきました。(多様なニーズに)我々の小さなチームではもう対応できないという事で、エースコンバットチームを大々的に拡大したいと思っています。"

これ以前にも、河野氏は自身のTwitterやゲーム系メディアのインタビューなどで度々「Project ACESは小さいチーム」「今の体制ではお客様の全ての要望に応えることは難しい」という主旨の発言をしていた。

「人が少ない?なら増やせばいいじゃん??」(某3分で分かる宇宙世紀の人風)というわけで、Project ACESの長年の悩みであったリソース不足に対する、最もシンプルかつ効果的な解決策が示されたわけだ。

将来的には複数ラインによる平行開発が望ましいが...

さて、ここで一つの疑問が出て来る。

人を増やすのは良い。だが、その増やした人的リソースをどのように割り振るのか、という疑問だ。

ここで一部のファンの中で有力視され始めたのが、開発ラインを増やして複数作品を同時並行で開発する、というものだ。

河野氏の発言の通り、ファンがシリーズに求める事はシステムや操作性などのゲーム面から、ストーリー・演出面まで多岐に及び、一つのタイトルで全てのニーズに応える事はほぼ不可能だ。

開発ラインが増えれば今よりも短いスパンで新規タイトルがリリースできるので、異なる作風のタイトルを出しやすくなるだけでなく、新作と並行してシリーズファンから長く待ち望まれている過去作のリマスターやリメイクを出すなんてことも可能になる。

実際、過去にはZERO・X・6というプラットフォームの異なる三つのタイトルを同時開発していたなんて話もあるし、7も本編とVRモードでチームが分かれた事実上の2ライン体制だったらしい。

いわば複数ライン開発はProject ACESの「お家芸」なのだが、流石に今の体制で、日々クオリティのデファクトスタンダードが引き上がるコンシューマゲームの複数タイトル同時開発は現実的ではないだろう。

だからこそのイルカとの業務提携&新規スタッフ募集というわけだが、現実問題として、人を増やしたからと言ってそんなすぐに複数ラインを構築することは出来ない、というかやるべきでないというのが筆者の考えだ。

そう考える理由は、(1)採用面での課題(2)採用人材の戦力化(教育)の課題、の二つだ。

(1) 採用面での課題は端的に言えば「今から募集かけても、そんなすぐに人集まらないでしょ」という話だ。

そもそもゲーム業界に限らず、今の日本はIT人材の不足が深刻だ。特に技術革新が目まぐるしく、トレンドが激しく変化し続けるゲーム業界は、その中でも高い能力を持った人材が多く求められており、どの会社も優秀な人材の確保に四苦八苦している状態なのだ。

イルカの採用ページでは多くの職種で「コンシューマー向けゲーム制作経験3年以上」が必須条件に挙げられている上、特番内では「即戦力」という前提に加え「エースコンバットが好きな人」「自分の能力に自信のある人」「自分の専門分野以外の領域(プログラマーならデザイン系など)にも知見や興味のある人」が歓迎する人材として挙げられており、見るからに求める人材のレベルが高い。このような人材は当然他社も欲している訳で、あえてProject ACES/イルカを選ぶ人が居るとすれば、例えば「元々エスコンを作りたくてゲーム業界を志望したが、バンナムの採用に落ちて泣く泣く同業他社に就職し、転職の機会を伺っていた」みたいな人に限られるのではないだろうか?

仮に上記の条件を満たした人材を獲得できたとしても、今度は(2)採用人材の戦力化(教育)の課題が立ちはだかる。この課題は端的に言えば「いくら優秀な人材でも、入社したその日から100%のパフォーマンスは発揮できない」という話だ。

これについては、一度でも同業他社への転職を経験された方なら良く分かるのではないだろうか?

業界や根幹の技術が同じだったとしても、会社が定めた業務プロセスやルール、従業員の気質や組織体質といった「文化」は会社によって千差万別であり、新しいスタッフはまずこの文化を理解し馴染まなければならない。

加えて、これもゲーム業界に限らずIT業界全般にあるあるな話だと思うが、基本的に新人育成を担当するスタッフが自分の仕事で手一杯で、新人の教育にまで手が回らず、結局新人は独学や見よう見まねで仕事を覚えなければならない場合が多い。

これは筆者も今まさに日々の業務で感じている事だが、本当に忙しい状態になると人を増やしても意味がない、寧ろ新人が足かせになって益々忙しくなる悪循環が生じてしまう。そもそも新人を育成できる人的リソースが無いので、人が足りなくなってから慌てて増やしても手遅れなのだ。

上記二点の課題に加えて、Project ACESには以下のような特有の課題があり、河野氏らの言う「新しいエースコンバット」を作れる「新しい血」を獲得・育成することは相当ハードルが高いと思われる。

・「フライト(シューティング)ゲーム」というジャンル自体がゲームの中でもマイナーな部類であり、ゲーム開発の実務経験があっても類似タイトルの開発経験を持つ人材は希少である

・Project ACESは良くも悪くも「職人気質」のスタッフが多く集まるチームであり、明文化されていないプロセスや判断基準が多く存在すると思われ、そういったチームの文化を新規スタッフに継承するには相応の時間を要する

以上の理由から、筆者としては拙速な開発規模の拡大や人員の分散は厳に慎み、まずは人材の確保と、新規スタッフの育成がきちんと行えるような体制構築に注力して欲しいという思いが強い。

何より、体制構築がままならない状態で複数ライン開発なんてしようものなら、結局リソース不足が解消されず、7と同じく過去作で評判の良かった要素(僚機指示など)や期待されていた要素(特殊兵装複数化など)の実装が見送られる可能性が高い。7は久々のナンバリング&初のPS4/Xbox One世代向けタイトルだったし、何よりこれまで自前のゲームエンジンで作っていたものをUnreal Engineに移行したという経緯があったので、多少物足りなさを感じても大目に見ることが出来たが、次回作ではそうはいかない。

複数ライン化するのであれば、開発のタイミングをずらして交互にリリースすることが望ましいのだから、当分は1タイトルの開発に注力し、新規スタッフの戦力化が完了してリソースに余裕が出てきたらラインを分ける方針で良いのではないだろうか?

エースコンバットは「売れるゲーム」であり続けなければならない

以上が、筆者がこれからより大きなチームに「脱皮」しようとするProject ACESの体制について思うことだ。(あくまで個人の主観が多く含まれたものであり、要望とか提言と言ったレベルのものではない、と言う事は改めて述べておく)

とはいえ、新作が出ることが確約されているだけでなく、ここまで堂々とチームの規模を拡大できるようになったというのは、シリーズの低迷期を知っている一ファンとして本当に感慨深いものがある。

一時期は経営陣から「必要ないのでは」とまで言われたエースコンバットというIPが、シリーズ27年目にして急成長を迎えた背景には、7が300万本売れ、関連商品の売り上げも好調という「実績」が間違いなく響いている。

7は確かに賛否両論の多い作品だし、筆者自身、7に対する不満を挙げたらきりがないのだが、それはそうとしてProject ACESが7の発売を最後まで諦めずに成し遂げたこと、売り上げが300万本を超えて、04の持っていたシリーズ歴代最高売上記録(264万本)を更新したことは、きちんと評価されるべきだと思うのだ。

勿論次回作では7で出た諸々の課題がきちんとクリアされることに期待するし、出来ていなければまた物申していくとは思うのだが、ぶっちゃけ一ファンの意見よりも「売れること」の方が重要なのは7が立証している。バンナムは「営利」を目的とした企業であり、売れないコンテンツに投資する義務は無いのである。

それでも、どうしても今のエスコンが気に入らない、どうにかしてくれなきゃ嫌だというなら、バンナムの大株主にでもなって経営陣に直接物申すか、「ぼくがかんがえたさいきょうのエースコンバット」を自分で作るしかない。

良いものが売れるとは限らないし、売れたものが良いものであるとも限らない」というのは筆者も概ね同意するし、実際それでもどかしい思いをした事も一度や二度ではない。が、その一方で「売れないものは生き残れない」というのも今のゲーム・コンテンツ業界の厳しい現実であることを忘れてはならない。

だからこそ、筆者はあえてこの言葉でこの記事を締めさせて頂く。


Project ACESの皆様。

どうかこれからも「売れるエースコンバット」を作り続けてください。


最後まで読んでいただいた方、ここまでお付き合いいただきありがとうございました。ご意見ありましたら是非筆者のTwitterにコメント下さいませ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?