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ZOO-1グランプリという特番を見ての感想と、どうぶつ番組について

生きものに関する番組は割と情報収集することが多く、その際にどういったことを取り上げるのか、ただ単に「カワイイ」という面だけを取り上げているのかなど、生きものたちの魅力をどうやって伝えているのかは割と興味がある分野ではある。けれど、その中でも、この特番についてはそれがとても上手に作られており、個人的にはとても評価が高かった。

全国各地の施設から飼育員がリモートで番組に参加しており、ときおり飼育員や獣医師の話を組み込むということもあった。しかもそれが、サンドウィッチマンの2人がうまくMCとして引き出しており、あまり出ていなかった施設にもスポットライトを当てるなど、MCが上手なことで番組を邪魔していないというのがとても大きかった。サンドウィッチマンの2人はMCとしての能力が高く、番組の進行をしているのを見ているとすごく安心すると思っているが、それだけでなくこの手の番組でありがちなワイプでのコメントも上手であまり邪魔しないなど、「主役はどうぶつたち」であることをきちんと認識した上での番組であると思えた

たくさんの人が出演している都合上、出てくる人と出てこない人とのバランスが悪くなってしまうことがある。けれど、うまくMCがバランスを取って質問したり背景を心地よく弄ったりするなど、嫌な気持ちにさせないという点ですごく良かったのだ。

では、番組の内容の解説に移ろう。簡単に言えば、動物園で飼育されている生きものたちの姿や行動などを飼育員がプレゼンし、どの子が良かったのかというのを部門ごとに決めていくというような番組であった。人間のようなしぐさをするようなどうぶつの部門や、偶然撮影できた動物園ならではの映像部門などの、様々なテーマごとでどうぶつたちの魅力あふれる映像が使われていた。そして、部門ごとにトップを飾った施設には、リクエストしていた「どうぶつたちのごはん」をプレゼントする、という内容の番組であった。

そして、細かなところであっても、どうぶつたちのことを伝えようとしてくことが伝わってくる番組でもあった。「特定動物」や「JAZA」など、動物園にあまり詳しくない人からすれば分からないような単語に注釈を付けたり、「ヤブイヌ(ブッシュドッグ)」というように、英名と和名を一緒に出しておくことで分からなくなるようなことを少なくするという配慮など、そういった細かなところに気を配っているという姿勢が伝わってくる番組であった。さらに、人間らしいしぐさの部門の後には、それとは全く異なる立ち位置の施設が「人間らしいふるまいなんてない」ということを言うといったことなど、バランスの取れた内容でもあったのだ。

牛骨35㎏やニンジン140㎏、スイカ50玉など、部門賞ごとに送られるものもどうぶつたちのごはんになるものであり、とくに個人的に印象に残ったのは、「牛骨ならどうぶつたちもごはんにかける時間が長くなるので」という発言を行った飼育員の方であった。そして、部門賞を選ぶのは飼育員や施設の園長、広報や獣医師など施設の代表者であることから、「律儀などうぶつ部門」でのフサオマキザルの行動に関しては多くの方が興味津々に見ていたというのも大きかった。

海の中道海浜動物公園のフサオマキザルは、「道具を使って食べものを食べやすくする」という行動を行っており、エンリッチメントの観点からも興味深いという点で評価されていたのだと思うと、なるほどなと思う。

ただ一点、気になるところがあるとすれば、「新しい部門の提案が……」という最後のCM前の引っ張りだった。結局それは「カワイイ飼育員さんいますよね、今度はその部門も」というような、飼育員さんにスポットを当てるものではあったのだけれど、さすがに言い方や切り方が悪かったのではないかなと思う。確かに最近は飼育員にもスポットを当てていくということも多く、人間的な魅力を発揮している飼育員さんだって数多くいる。しかしながら、ある種のジェンダー的な感覚を持っている人がそれを提案しているという感じを、捨てきれなかったというのが残念な部分なのではないだろうか。女性飼育員というのをどう見るのかというのが、この番組での最後の最後にちょっとしたわだかまりを残したというのが、気になったところではある。

とはいえ、こういった、「動物園や水族館」を扱うような番組というのはなかなか少なくなってきている。他の様々なエンタメや情報が増えてきたこともあり、相対的な注目度も下がってきているというのもあるだろうけれど、改めてテレビというメディアの影響力の大きさというのを実感する。

そして、個人的に興味深いなと思えてきたことが、飼育員の皆さんのプレゼン能力の高さである。施設側が自発的に情報を発信していくことが求められるようになったことで、飼育員の仕事も多様化している。単に生きものを飼育していけばいいものだけではなく、「飼育している生きものの魅力を伝えていく」ということも求められるようになってきているのである。そして、それぞれの「好き」をどう伝えていくのか、そのプレゼンが上手いなと思うのであった。トレーナーの方やショーに出ている方が上手なのはもちろんだが、YouTubeのチャンネルに出てきているような方もいたり、慣れている人というのが多かったというのが印象に残っている。

他にも、部門賞の賞品が「どうぶつたちのごはん」という点も良かったと思う。このコロナ渦において、動物園の経営は芳しくないということも多く、エサ代は出費としても大きく、その上で減らすことも難しい。その中でこのような形で賞品にしたことで、動物園を支えていくということも可能になっているということだ。とはいえ、出演したとしてもそれで必ず貰えるというわけではないかもしれないが、それであってもサポートとしては大きな意味を持つのではないかと考えている。

そして、「種類だけではなく個体を取り上げた」というのも、なかなかに面白いところではないかと思う。動物園フリークでもなければ、それぞれの個体に注目するよりも、「生きものの種類」に注目しがちである。しかし、イケメンライオン部門というテーマにおいては、様々な施設からライオンの魅力を取り上げていて、それぞれの個体の違いというのも実感させられるというのも大きかった。どういう風に違いがあるのか、性格や見た目、顔立ちなどの違いを分かりやすく解説していたということは、まさに個体に対しても注目してほしいという思いが伝わってくるような内容であった。

こういった番組はなかなかないとは思う。確かにどうぶつたちを取り上げる番組というのはある程度の視聴者数を確保できるという点において、「どうぶつというのは優良なコンテンツ」ではあるといえるだろう。しかしながら、だからこそ、「無理にどうぶつたちのことを扱う番組が増えるのではないか」という疑念もあるのである。最終的にペットとなる生きものへと移行してしまったことで僕が見なくなったような番組や、ペットの扱いが明らかに悪い人が出てきたことで、スタッフを実際に野生のネコ科がいる場所に向かわせて撮影させていくというような企画を持っていた番組が打ち切りになった事例だってある。そういった意味では、「動物園や水族館が好きな人」と「野生の生きものが好きな人」、「ペットとして生きものを飼育している人」は同じような層ではないということを声高に伝えていきたい。他人のペットが見たいわけではなくて、様々などうぶつが見たい人だっている。けれど、そういう人たちの感覚というのは軽視されてきた。それにフラストレーションを感じる人だっているのではないかと思う。それに加えて、生きもののことが大好きだからこそ、大切に扱ってほしいという思いを抱いている場合も多い。テレビでさまざまなどうぶつを見たい人の声がなかなか届かなかったからこそ、動物番組=ペットの番組という構図が成り立ってしまったのではないだろうか。

でも、この番組は久々に、民放の番組でそのような「ペット番組」ではない生きものの番組をやってくれたという思いがあるからこそ、満足であった。動物園という施設を中心に据えているからこその、企画としてのぶれなさがあり、そして魅力を伝えていくことをきちんとしていた。でも、こういった内容をレギュラー番組として続けていく中で、どこかでペットの話題に移ってしまうことがなによりも危惧している身としては、レギュラー放送をしていくことへの不安というのも捨てきれないと思っている。

とはいえ、こういった企画をレギュラー放送できる番組にしていくことができれば、それはそれですごく重要なのではないかとも考えており、見ごたえのあるどうぶつたちの番組というのをかなり心待ちにしているからこそ、こういった企画の番組はきちんと見ていきたいと思っている。

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