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八景島シーパラダイスで感じた物足りなさの正体を考察する〜「可逆順路」と「不可逆順路」の差

 先日、久しぶりに八景島シーパラダイスに訪れた。割と短時間の滞在ではあったが、個人的には同程度の滞在時間に対する満足感が、どうしても野毛山動物園と比較して物足りなく感じてしまった。その要因を考えると、「順路のめぐり方」にあったのではないかと思えてきたのだ。

「可逆順路」と「不可逆順路」

 動物園や水族館には「順路」が設定されていることが多い。このルートを巡ることで施設を巡りやすいというルートで、動物園水族館だけでなく美術館や博物館でも用いられている手法である。けれど、この「順路」というものが意外と厄介な存在でもあるのだ。
 自分が動物園を楽しむ時、順路通りに巡る以外にも特定の生きものの展示施設を巡るという楽しみ方を行なっている。決まった順番で訪れるだけでなく、自由に歩き回って楽しむということだ。この場合、順路通りであっても「戻ることができる」ようになっている施設もあれば「一度来た場所に戻るには入り口に戻る必要がある」施設もある。こういった順路のことを、「可逆順路(自由に戻れる順路)」と「不可逆順路(自由に戻れない順路)」の2つに定義する。野毛山動物園やよこはま動物園ズーラシア、金沢動物園は「可逆順路」なのだが、八景島シーパラダイスのメイン施設は「不可逆順路」なのだ。

戻れるか戻れないかの差とは

 動物園や水族館を訪れている時、こう思ったことはないだろうか。
『さっき見た生きものと見比べてみたい』
『この生きものを優先して先に見たい』
『とりあえず先にショーに行く』
など、自分が決定した順序で巡りたいという考えを持つ人もいるだろう。けれどその場合、「不可逆順路」だとどうしても再度入り口に戻る必要がある。何度も入り口に戻って再入場を繰り返すということを考えると、かなりの手間がかかる行動になるのだ。
 そういう人の場合、「可逆順路」になっていると自由に行動できることもあり、訪れたい場所に訪れたいタイミングで行くことができる。個人的に感じた物足りなさの要因が、まさに「さっき見た生きものを見返したい」というのが難しかったというのもある。
 一方で、不可逆順路にも利点がある。それは「順路を設定することで施設管理がしやすい」ということだ。どういうことなのかというと、決められた順路があるからこそ、どれくらいの人が訪れているのかを把握しやすく、どこに混雑が集中しているのかといった「人数調整」が行いやすいのだ。一方通行ということもあり、清掃や設備調整の時のコストを減らすこともできる。要するに、施設管理を簡素化することで、リソースを生きもののために使う選択ができるようになるのだ。
 また、自由に行動する必要がないということは、逆に言えば「選択肢が少なくて済む」ということでもあり、全体を一気に楽しむという方式にはもってこいなのだ。そもそもの話として、順路通りに巡る必要のない「ヘビーリピーター」とは違い、多くの人にとってはそこまで多く訪れるような場所ではない。そういう場合、決まった順路があるからこそ施設を巡りやすいということにもつながる。また、どの生きものの展示にも「平等に人がやってくる可能性」があるのだ。そういう意味では、取りこぼしがしにくいというのも利点になる。
 管理のコストを軽減できる施設側にとっても、それほど多く訪れるわけではない人にとっても、「不可逆順路」というのは都合が良い方式でもあるのだ。

 ただ、可逆順路であっても、不可逆順路の設計に近い施設もある。例えばズーラシアではきちんと順路が設定されている上で「前のエリアに戻れるルート」や「エリア移動しやすい近道」が存在しており、不可逆順路の巡り方もできるようになっている上で可逆順路に対応した方式だ。動物園の展示施設の配置は、上野動物園や野毛山動物園の地図を見れば分かるように、あちこちに道がある間に展示施設が配置されている施設も結構ある。自由に行動できる分、その一方で「あまり注目されない生きもの」も出てくるのだ。

 ではここで、可逆順路方式と不可逆順路方式のメリットとデメリットを整理する。

可逆順路方式

メリット

  • 来園者が自由に行動できる

  • 生きものの展示を見る人を分散できる

デメリット

  • 「訪れる展示の優先順位」を来園者が決める必要がある

  • 道が多くなるために施設管理のコストが不可逆順路と比較してかかる

  • 人気のある生きものとそうでない生きもので、注目されやすさに格差ができる

不可逆順路方式

メリット

  • 施設の維持管理が行いやすい

  • どの生きものの展示にも、「平等に来園者が訪れる可能性」がある

  • 簡単に施設を巡ることができる

デメリット

  • 途中にある展示を再度見るためには、再入場する必要がある

  • 途中で混雑すると渋滞が発生しやすい

 このように、どちらの方式でも良い点悪い点が存在するのだ。

 あくまで個人的な感想だが、可逆順路方式に慣れすぎていたせいで不可逆順路方式に対して退屈な感情を持ちやすかったのかもしれない。自分の選択が制限されているような感じがして、ある程度全体を見たら好きな展示の前に張り付くのに手間がかかるため、それが物足りなさに繋がったのかもしれない。
 バイキングやビュッフェ方式で「好きな食べ物ばかりを食べる」楽しみ方も良いけれど、「様々な料理を食べる」楽しみ方も良い。自分にとってそういう楽しみ方を選べる余地がある方が好きであるし、楽しみ方を強制するのはいけないことだと思っている。

 とはいえ、やはり元が動物園派の人間だからか、水族館で用いられることの多い不可逆順路方式が合わないだけなのかもしれない。そう考えると、自分には可逆順路方式が合っているのだなとは思っている。

 順路の方式という考え方から、自分が満足感を感じにくかった点を整理してみた。個々の展示施設を見て感じた物足りなさもあるが、それ以上に順路のめぐり方によって自分の好きなように巡れなかったのが何よりも尾を引いているように思える。
 ちなみにだが、訪れた時はイルカショーやイワシの大群のショーは見ていない。生きものを用いたパフォーマンスにおいて、人間の都合だけを優先したものがあまり好かないというのもある。音楽に合わせてイワシの大群を動かし、様々な色のライトを当てる演出に関しては、個人的に好きではない。感覚過敏ということもあり、うるさくて眩しくて、どうも苦手だ。静かにゆっくり楽しむのが好きなので、そういう演出と相性が悪いのはあくまで個人の感覚によるものだが、個人的に好きではないとはいえど、興味を持つ第一段階として考えるならやむなしではあるので、気になるという人は見てみると良いかもしれない。

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