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【掌編小説】 バイク修理技術と念仏

 バイク修理には機械工学の知識が役に立つ。ガンプラを作った時にもそう感じたし、家のちょっとした補修などにも、案外、機械工学の知識は役に立つのだ。

 親の介護を理由に仕事をやめ、親の年金に頼って生活をしてきたが、親が死んで、気づけば自分がすでに老人といってよい年齢になっていた。ろくな求人もなく、そもそもまともに働く気もないので、まるで実入りがない。

 そんなある日、あてどなく散歩をしていて、川辺に一台の打ち捨てられたバイクをみつけた時、ピンときたのだ。これを修理し販売すれば、糊口をしのげるのではないか。なにしろ自分には機械工学の知識があるのだから。

 さっそくネットでバイク修理技術に関するノウハウをざっくり習得し、ネジやらコードやら修理に必要な部品もネットで仕入れ、いざ修理にとりかかってみたものの、なかなかうまくいかない。これはどうしたことかと、いらいらして唇の皮を剥がしていると、死んだ母の言葉が甦った。

 困った時は、お念仏。ナンマンダー。

 篤信の母は、父が死んでから日に三度は仏壇に向って念仏を唱えていたものだ。そういえば、仏壇に供えたみかんをそろそろ食べないといけないと思っていると、ナンマンダー、ナンマンダー、ナンマンダーと念仏を唱える母の声が聞こえてきた。まさかと思い、小窓を開けて家の中を覗くと、仏壇に供えたみかんをありがたそうにつまむ母の姿があった。

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