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【掌編小説】 砂漠の自由

 砂丘は相変わらずつづいていて、太陽が照りつけ、剥き出しの肌が焦げる。風も強くて、砂粒がビシビシとあたるのが、痛くて不快だ。塩まじりの砂は鼻の粘膜をヒリツカせて鼻水が止まらなくなる。汗と鼻水の出過ぎで脱水症状になって死ぬかもしれない。

 陽炎でゆらめきながら、ラクダに乗って男がやってくる。男は苦悶の表情で腹を両手で抑えている。腹から血が止めどなく溢れだしていて、ラクダの背中を赤黒く染めている。

 この先に殺し屋がいる、といって男は吐血し、ラクダからずり落ちて絶命した。ラクダはその場でしばらく所在なげにしていたが、風が強く吹くと、煽られるようにどこかへ向けて歩き出した。教会の鐘がどこかで鳴っている気がして、頭が膨張して破裂しそうになった。

 しかたなく男が来た道を辿っていくと、確かに殺し屋らしき人物が、独り立っていた。テンガロンハットを目深に被り、ズタボロのマントを羽織っていて、いかにも西部劇のガンマンといったふぜいだ。殺し屋は帽子に手をかけながら、

 この帽子を空に投げて、堕ちるまでに、お前は死ぬだろう、と言った。

 殺し屋が帽子を空に投げると、また一段と強い風が吹いて、帽子はどこかへ飛んでいってしまった。殺し屋の目は義眼だった。

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