はなかっぱ創作小説・第1話「はなかっぱとはす次郎」

 ここは我々の住む地球とは別時空に位置する、緑溢れる村・やまびこ村。
そこには多種多様な種族の住民と、頭に花を咲かせられる術「開花」を使う妖(あやかし)・はなかっぱ族が住んでいる。

 そのやまびこ村の外れには、蓮が咲き乱れ、一つの小島を浮かべた「かっぱ池」と呼ばれる池が存在する。その小島には、「はなかっぱ」というはなかっぱ族の少年が暮らしている。彼の他にも、嘗て世界中を股に掛けた冒険家にして最強の戦士である祖父・はす次郎と、母親であるポッポリーヌ、父親であるひまごろう、そして祖母であるかすみの5人の家族が仲良く暮らしている。

 そして、はなかっぱ族には種族の決まり事に、開花の術を用いて人の暮らしに協力する、という物がある。その為、彼らは成人の儀として、一つ自分を象徴する花を決め、その花を一生頭に咲かせる習慣がある。

 はなかっぱは成人の儀に備えて、日々祖父であるはす次郎と開花の練習をしている。そして今日の早朝も、彼らの特訓が始まろうとしていた。

はす次郎
「よし、はなかっぱよ。今日も朝の特訓を始めるぞ。」
はなかっぱ
「はい!おじいちゃん、分かりましたっ!」
はす次郎
「毎日言っているとは思うが、開花の術という物は、一朝一夕で完璧に覚えられるものではない。日々の特訓を通して、少しずつ身体で覚えていくものじゃ。さて…最初はいつも通り、儂の言った花を咲かせてみるのじゃ。しっかりと『花咲かの舞』を踊るのじゃぞ?」
はなかっぱ
「うん、やってみるよ!」
 はなかっぱ族は、開花の術を用いる際に「花咲かの舞」と呼ばれる舞を行う事で、頭に花を咲かせる事が出来る。特訓を積んだはなかっぱ族は舞が無くとも花を咲かせる事が出来るが、そこまでの領域に辿り着くには長きに渡る修業が必要となってくる。

はす次郎
「先ずは『チューリップ』を咲かせてみるのじゃ。頭の中で強くチューリップをイメージしながら、無心で踊るのじゃぞ?」
はなかっぱ
「よーし!」
そう言うと、はなかっぱは呪文を唱えながら、開花の舞を踊り始めた。
はなかっぱ
「春夏・秋冬・朝昼晩・花咲け・チューリップ・うーん・開花!」
 はなかっぱが舞を終えると、彼の頭には赤いチューリップが咲いていた。
はす次郎
「うむ、良い出だしじゃのう。次は『キンギョソウ』を咲かせてみろ。」
 はす次郎がそう言うと、はなかっぱは再び舞を踊った。
はなかっぱ
「春夏・秋冬・朝昼晩・花咲け・キンギョソウ・うーん・開花!」
 はなかっぱが二度目の舞を終えると、彼の頭にはキンギョソウが可愛らしく咲いていた。
はす次郎
「よしよし、良い出来じゃ。それじゃ、最後の問題じゃ。『アセロラ』を咲かせてみろ。」
はなかっぱ
「はーい!」
 そう言って、はなかっぱは三度目の舞を踊り始めたが、彼は内心開花の修行に慣れ切ってしまい、頭の中では朝食の事を考えていた。
はなかっぱ
「(今日の朝ごはんは、トマトかな、
きんぴらごぼうかな、それとも、お豆かな?)
春夏・秋冬・朝昼晩・花咲け・ぱっかん・うーん・開花!」
 はなかっぱが舞を終えると、アセロラではなく枝豆が頭に咲いていた。
はす次郎
「はなかっぱ、これはアセロラじゃなくて枝豆じゃよ。全く、さては朝ご飯の事を考えていたな?」
はす次郎の鋭い指摘に、はなかっぱは図星を突かれた。
はなかっぱ
「えっ、いや、あはは…」
はす次郎
「…まあいい。よし、次は裏山の原っぱで組手をするぞ。」
はなかっぱ
「よーし、今日こそおじいちゃんに勝つぞー!!」
こうしてはなかっぱ達は、裏山の原っぱまで走って行った。

──裏山の原っぱ
 はなかっぱ族は、時に村を狙う悪党と戦う機会も存在する。その際には、様々な植物の特性を用いて、敵を打ち倒すのだ。
 はす次郎は一本手頃な大きさの枝を拾い、遠くからはなかっぱに話し掛けた。そして、はなかっぱの手前の地面には、一本の線が引かれている。
はす次郎
「先ずは儂がこの手に持っている枝を折ってみるのじゃ。但し、この線から出てはいかんぞ。さあ、やってみるが良い。」
はなかっぱ
「はい、おじいちゃん!」
「春夏・秋冬・朝昼晩・花咲け・ホウセンカ・うーん・開花!」
 そう言って舞を踊ると、はなかっぱの頭にホウセンカが咲いた。
 ホウセンカは、種を出す時に花から種を勢い良く発射する習性がある。はなかっぱ族はその習性を利用し、遠くの敵を狙撃する際にホウセンカを咲かせる事が多い。
はなかっぱ
「開花術・ホウセンカ!あの枝を撃ち抜け!!」
 はなかっぱがそう言うと、頭のホウセンカから大量の種が発射された。そしてその種は真っ直ぐに枝へと向かい、見事に枝をへし折った。
はす次郎
「はっはっは、はなかっぱよ。ホウセンカの扱いも随分慣れてきたのう。」
はなかっぱ
「へへへ~、まあね~。」
はす次郎
「さあ、はなかっぱよ。次は組み手の時間じゃ。この儂に尻餅をつかせたのならば、お前の勝ちじゃ。但し、身体を地に着けたのならば、お前の負けじゃ。」
はなかっぱ
「よーし、おじいちゃん。今日こそは絶対に僕が勝つ!!」
 はなかっぱははす次郎との組手において、一回たりとも勝てた試しはない。何故なら、はす次郎は嘗て世界中の悪党と拳を交え、はなかっぱ族の中でも別格の強さを誇っているためだ。
 こうして、はなかっぱとおじいちゃんは何もない原っぱにて向かい合った。開幕一番、はす次郎の正拳突きが飛んで来る。しかし、はなかっぱは直ぐ様両腕を前で交差させて拳を防ぐ。そして、両者は互いに距離を取った。
はなかっぱ
「(おじいちゃん…次はどんな攻撃をしてくるのだろう。)」
 はなかっぱがどの様に攻めようか考えていると、はす次郎は突如として横跳びを繰り返し、はなかっぱを惑わしてきた。
はす次郎
「(ふっふっふ…はなかっぱよ。この儂の動きが読めるかな?)」
 しかし、はなかっぱもはす次郎に散々扱かれてきただけ有り、その位の事ではへこたれなかった。
はなかっぱ
「(よし、動き回る相手には桜吹雪で妨害する!)」
 はなかっぱは素早く舞を踊り、頭にサクラを咲かせた。そして、はなかっぱは上半身を勢い良く回し、旋風を引き起こした。
はなかっぱ
「必殺!桜吹雪!!」
 はす次郎の元に突風が吹き荒れる。しかし、はす次郎は戦闘のプロ。突風の中でも平然と直立していた。
はす次郎
「成程、これは確かにいい風じゃ…しかし、儂には効かんよ。」
 はす次郎がそう呟くと、勢い良く飛び上がり、はなかっぱの元に飛び掛かってきた。
はなかっぱ
「(…来た!ここでホウセンカを撃ってもおじいちゃんには効かない…なら、一か八かヒノキで打ち落とす!)」
 はなかっぱは賭けとして、はす次郎が近くに来たタイミングで、舞を踊らずにヒノキを咲かせる事にした。
はなかっぱ
「(開花…ヒノキ!!)」
 はなかっぱが念じると、頭から立派なヒノキの樹木が生えてきた。
はなかっぱ
「(やった!舞を踊らずに花が咲いたぞ…!!)」
 しかし、現実はそう甘くなかった。はす次郎は手刀でヒノキを真っ二つに斬り、直ぐ様はなかっぱの頭を小突いて後ろに押し倒した。
はなかっぱ
「うわっ…ギャフンッ!」

はす次郎
「はっはっは、今日もお前の負けじゃ、はなかっぱ。残念じゃったのう。」
はなかっぱ
「そんな~」
 笑うはす次郎。一方のはなかっぱは凹んでいた。
はす次郎
「じゃが、心配する事はない。お前の開花の腕も、着実に上っている。今日の戦いを見て分かったよ。」
はなかっぱ
「えへへ…有難う。」
はす次郎
「よし、今日の特訓はここまでじゃ。お家で美味しい朝ご飯が待っておるぞ。」
はなかっぱ
「うわーい!!ご飯かな?パンかな?それとも豆ご飯かな?」
はす次郎
「ははは、相変わらず現金な奴じゃのう。」
 こうしてはなかっぱとはす次郎は早朝の特訓を終え、家路を急ぐのであった。

第2話「はなかっぱと仲間たち」に続く。

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