見出し画像

恋愛感情の賞味期限について

昔、「小さな恋のメロディ」という映画を観た。少し前に、NHKのBSでも放映していた。71年の映画であるから、既に50年以上も前の作品ということになる。

この映画は、大人になって観ると、なかなか考えさせられる点が多い。

まず言えることは、子どもたちの出身階層をきちんと描写していることだ。主人公であるダニエル(マーク・レスター)の母親は上昇志向が強く、世間体を気にするタイプ。息子に対しては、かなりの過保護っぷりである。父親はあまり登場しないが、会話の内容から、職業は会計士と思われる。典型的な中産階級家庭という感じである。

ヒロインのメロディ(トレイシー・ハイド)の家は明らかに労働者階級である。母親と祖母は昼間からお茶を飲みながら、くだらない噂話ばかりしている。父親の方は、会話の中で「保釈中」とか言われていたから、何かやらかして警察のご厄介になっていたのかもしれない。見るからに根っからの悪党でもなさそうだが、いずれにせよ、あまり生活には余裕がなさそうな一家である。

ダニエルの友人のトム(ジャック・ワイルド)は、祖父の介護をしなければならない、いわゆるヤングケアラーである。こちらも労働者階級だし、メロディの家よりも悲惨そうな匂いがする。

英国は階級社会であり、所属する階層によって、住む場所も違うし、パブ(居酒屋)の入り口も、店内の調度も、ホワイトカラーとブルーカラーでは異なっていると聞いたことがある。だから本当は、ダニエルが、トムやメロディと同じ公立学校に通っているのにも少し違和感がある。上昇志向の強い彼の母親ならば、もっとそれなりの学校に息子を通わせようとするはずだからである。まあ、その辺は敢えてここでは突っ込まないことにする。

この映画のラストシーンは、ダニエルとメロディが、教師や母親に反抗して、トムら級友たちの協力で結婚式を挙げて、二人でトロッコに乗って、どこまでも走り去るところで終わっている。何となく、「卒業」というダスティン・ホフマンが主演した映画のラストシーンを思い出させる。

主人公ら二人のその後の人生はどうなっていくのであろうか。あまり明るい未来が待っていそうには思えない。家庭環境がかなり違うし、彼らがこのままつきあったとしても、双方の進路は大きく異なるだろう。だんだんと価値観の違いなども明らかになっていくに違いないし、どこかの時点で双方にとってあまり居心地の良くない関係になってしまうような気がするのだ。

恋愛感情というものには、明らかに「賞味期限」があると思う。それは3年くらいだという説もあるし、4年だという説もある。要するに、人間が子育てが一段落して、次の妊娠・出産に向かうまでのインターバルとほぼ一致するという考え方である。それまでの間は、幼い子どもを抱えた女性を放り出すと、生きていけない可能性があるからだ。基本的には、男性は自分の遺伝子を多くの女性にばら撒きたいし、女性はより優秀な遺伝子を取り込みたい。これは遺伝子にプログラムされた本能的な衝動である。したがって、恋愛感情というものも、一種の性的な衝動というか、現象、あるいは熱病みたいなものと言い換えても良いかもしれない。

したがって、若いダニエルとメロディがその後もずっと一途な恋愛関係を続けるとしたら、却って不自然であるとさえ言える。

映画はラストシーンで終わることができるが、人生はその後も続く。そう考えると、一時の衝動だけで、恋愛に対してあまり甘い幻想を持ちすぎない方が賢明であろう。

今は相手のことに夢中であっても、そうした頭に血が上ったような感情はいつかは醒めるものだと覚悟を決めるべきだし、意外と長続きするようならば、ラッキーだと思うくらいがちょうど良いのではないだろうか。

映画「卒業」の原作小説は、昔、大学時代に原書で読んだことがあるが、これには続編があるのだそうだ。「ホームスクール」というタイトルで、11年後、二児の親になったベンジャミンとエレインの物語なのだそうである。

映画や小説のラストシーンの印象だと、すぐに破局しそうな感じであったが、案外、長持ちしたということである。だが、中年になって、生活やら子育てに疲れた、その後の彼らにはあまり興味は湧かない。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?