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「民間軍事会社」について

最近、ロシアの「ワグネル」社に関する記事を中心に、「民間軍事会社」なる用語が新聞に頻繁に登場するようになった。従来はあまり一般人には馴染みのない言葉である。

Wikipediaによれば、<直接戦闘、要人警護や施設、車列などの警備、軍事教育、兵站などの軍事的サービスを行う企業。>を意味する。

イラン・イラク戦争の頃から、そういう商売があることは知っていたが、主として軍事施設の警備とか、兵站・整備・訓練等の後方支援が主たる業務だと思っていた。軍隊には最前線の戦闘部隊を支えるための膨大な後方業務がある。米軍などの場合、9対1で後方業務を担う人員の方が圧倒的に多いのだと聞いたことがある。とはいえ、軍隊の正規の人員数を簡単に増やすことは政治的にも厄介な問題をはらんでいるから、民間にアウトソーシングするようになってきたという話である。民間企業が、あまり正社員を増やさずに、非正規雇用や業務委託で業務を賄うのと同じ理屈であろう。

ロシアのワグネル社などは、後方支援にとどまらず、事実上の準軍事組織というか、前線で正規軍と同じように戦闘行為も行なうし、プーチンの私兵みたいな役割まで果たしているのだという。なにやら、ナチス・ドイツの親衛隊と少し似ているような気がする。独裁者というものは同じようなことを考えるものであり、正規の軍隊といえども信用できず、より自分の意のままに動く武装勢力を配下にキープしておきたいと考えるのであろう。

で、その自分の私兵というべきワグネル社に反乱を起こされたのだから、これは予想以上にプーチンには衝撃的だったのではないだろうか。文字どおり、「飼い犬に手を噛まれる」といった類の話である。

こういう事件が起きたら、次はどうなるかというのもまた、容易に想像がつく。独裁者のもともと強い猜疑心はより強くなり、もう誰も信用できなくなってしまう。今までも意に沿わない人間はいろいろな手段を使って排除してきたのだろうが、さらにエスカレートしていき、粛清に次ぐ粛清が始まるに違いない。周囲は既にイエスマンばかりである。彼らはプーチンの怒りを買うのが怖いから、誰も何も言えなくなる。

こうなると、組織はやがて内部から崩壊するしかない。プーチンも70歳である。カラダは鍛えているかもしれないが、健康不安説もある。いつまでも生きているわけはない。周囲の人間たちとしては、早くプーチンが死ぬことを願っているかもしれないし、弱ってきたところで、クーデターとか暗殺とかといった物騒な事件が起きる可能性は大きい。いずれにせよ、今回の事件が、ロシアの現政権にとっての「終わりの始まり」になるような気がしてならない。

どんな組織でも独裁者というものは、中長期的には害毒になり得る存在である。短期的であれば、優秀な独裁者が強力なリーダーシップに基づき即断即決で組織を動かすことは、スピード感があって、とても効率が良い。非常時にはこういうタイプのリーダーが不可欠である。

しかしながら、平時においては、多少の効率の悪さには目をつぶっても、民主的な合議制で物事を進めた方が良い。その方が人材が育つし、長い目で見れば、リスクが少ない。民主主義の良いところは、間違ったなと思えば、やり直すことができるところにある。どんな優秀なリーダーでも無謬であり続けることは難しい。有事と平時において、リーダーに必要な資質は異なるのだ。そういう意味では、第二次世界大戦が終わったら、さっさとチャーチルを首相の座から引きずり下ろした英国の議会民主主義政治というものは、誠にたいしたものであると言わざるを得ない。

以上のようなことをつらつらと考えるに、今の日本において、強力なリーダーシップをもった有能な指導者がいないのは、まだまだ日本が平和だからだと言えなくもない。もっともっとヤバくなって、国の存亡の危機にでもなれば、もう少し状況が変わってくるのかなあと思う次第である。


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