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兵站軽視について

腹が減っては戦はできない。「戦争という仕事の10分の9までは兵站である」という。

兵站とは、Wikipediaによれば、「兵站(へいたん、英語: Military Logistics)は、戦闘地帯から見て後方の軍の諸活動・機関・諸施設を総称したもの。戦争において作戦を行う部隊の移動と支援を計画し、また、実施する活動を指す用語でもあり、例えば兵站には物資の配給や整備、兵員の展開や衛生、施設の構築や維持などが含まれる。」と記されている。

最前線で武器を持って戦っている戦闘部隊を、後方から支えている裏方業務全般のことであり、米軍などでは、携わっている人員的にも後方支援の方が圧倒的に大多数を占めるという話を聞いたことがある。

それとは対照的に、帝国陸海軍の時代から、我が国は兵站軽視の伝統があるようで、「輜重輸卒が兵隊ならば,蝶々,トンボも鳥のうち」と言って、最前線で実際に戦っている部隊を重んじ,後方の支援に当たる部隊を軽視していた。物資が足らない分は、気合でなんとかするしかないと、大本営のエリートは本気で考えていたらしい。

自衛隊員が生活を送る隊舎にエアコンがないのは、最近まで当たり前であったという記事を本日の日経電子版で読んで軽く衝撃を受けた。

防衛省が所有する建物の4割、9800棟程度は築40年以上で、旧耐震基準の建物でその8割は耐用年数を過ぎているとのことであり、全て最新にしたらそれだけで防衛費の増加分を使い切ってしまうかもしれないともいう。

18年にはトイレットペーパーを自衛隊員が自費で購入する話が国会で取り上げられた。

自衛官をエアコンもない古びた隊舎に住まわせた上に、トイレットペーパーを自腹で買わせるような仕打ちをしておきながら、有事の際には命がけで国民を守ってくれることを期待しているとすれば、相当に図々しい話である。

航空機や戦車など装備品の稼働率も大幅に低下しているという。防衛省が非公式に実態を調査したところ、全装備品のうち足元で稼働するのは5割あまりで、稼働していない5割弱のうち半数は「整備中」、残りは修理に必要な部品や予算がない「整備待ち」とのことである。予算が足りずに予備の部品が確保できない場合、応急措置として同型機から部品を外して流用するようなことまで行われているとある。

22年度の防衛予算のうち、維持整備費は1兆1000億円と2割ほどであるが、「整備待ち」を解消するには「倍以上は必要」という意見もある。要するに防衛予算が全然足りていないのだ。

ミサイルや弾薬も足らない。弾薬は長期間は保管しにくい。機銃や迫撃砲の弾を含む弾薬全般の備蓄は「最大2ヶ月ほど」とされるが、既に1~2割は古くて使用できないとのことであり、こんなことでは継戦能力は期待できない。しかも冷戦期のまま、弾薬の7割が北海道にあるとのことで、九州・沖縄には1割以下という。本当に中国が攻めてきたらどうするつもりなのか。

現実問題として、日本単独で大国の侵攻を防ぐことは想定しておらず、その力もない。「米軍の増援が来る数週間をまず耐えしのぐ」というのが大方針であるが、いまの継戦能力ではそれさえ心許ない。

野放図に国防費を増やすべきだとは思わないが、必要な経費は負担するしかない。国防は国にとって最重要の仕事の1つであることは間違いない。

「素人は「戦略」を語り、プロは「兵站」を語る」という。伝統的な兵站軽視による蹉跌を繰り返さないためにも、現場のケチケチしたやり繰りや創意工夫で何とかしようなどとは考えない方が良いし、そんなレベルの話ではない。それでは気合で何とかなると思っていた大本営と同じである。

補給、輸送、整備等を含めた兵站、つまり後方支援能力こそが、その国の防衛能力の真の実力だと考えるべきである。今のままでは、いくら最新鋭の戦闘機やイージス艦があっても、「張り子のトラ」みたいなものである。


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