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タワマンについて

タワマンと呼ばれる超高層マンションは、もともとの定義によれば、高さ60メートルを超えるマンションの総称とされている。日本におけるタワマンの第1号は、76年に住友不動産がさいたま市(当時は、与野市)に建てた分譲マンション「与野ハウス」(21階建て、高さ66m)である。

「与野ハウス」は、完成後、既に50年近くが経過しており、建物自体だけではなく、住民の高齢化も進んでおり、「2つの老い」が由々しき問題になりつつあるという。日経の記事では、<463世帯の半数以上は70歳以上の高齢者世帯だ。15人いる役員は50代の3人が最若手で、75歳以上が中心となる。>とある。

高度成長期に各地で開発された「ニュータウン」で、住民の高齢化が進んでおり、もう何年か経てば、日本のあちこちでゴーストタウンが出現しそうな勢いであるが、それと同じことが、タワマンでも起きているということである。

タワマンに限らず、分譲マンションのような、いわゆる「区分所有建物」の困るところは、多数の権利者が存在することである。何かあっても、意見を集約するのに手間がかかる。ましてや、タワマンともなれば、区分所有者は大層な人数になる。しかも、上層階と低層階だと価格差が著しい。ということは、同じタワマン内でも上層階の住人と低層階の住人では所得・資産格差が大きく、価値観や考え方にも大いに開きがあるということであり、そんなところの管理組合で権利者の合意形成が円滑に進むとは思えない。

マンションが老朽化すると、大規模修繕が大きな問題になる。外壁の塗装とか、ベランダの防水等はともかく、エレベーターとか機械式駐車場等の設備を取り換えるとなれば、多額の費用がかかる。もちろん、大規模修繕に備えた修繕積立金をあるにせよ、多くのマンションで積立金不足が指摘されている。積立金の値上げをするというような話になると、大勢の区分所有者の同意を得るのは容易ではない。住民が高齢化していれば、なおさらである。

分譲マンションの場合、区分所有権者の権利が及ぶのは、個々の専有部分だけであり、それ以外の部分、建物自体の壁や柱、エントランス、エレベーター、廊下、駐車場、機械設備等はすべて共有部分である。建物が高層化、大規模化すれば、専有部分に対する共有部分の比率は総じて大きくなる。共有部分の補修に関する費用は、区分所有者が区分所有割合に基づいて負担するということになる。

マンションは、管理が杜撰だったり、修繕が適切でなかったりすると、快適さや安全性が損なわれ、ブランドや資産価値が下落する。日本でいちばん古いタワマンである「与野ハウス」がそろそろ築後50年ということなので、いずれは建て替えも視野に入るのだろうが、「2つの老い」が進行する中で、建て替えのような多額の費用がかかるプロジェクトの意見調整がうまくいくとは思えない。そもそも、区分所有者が50人くらいしかいない普通の分譲マンションでも、大規模修繕とか建て替えとかおカネがかかる話になると、必ず揉めに揉めるものなのだ。

タワマンに憧れる人は世の中にたくさんいるのだろうが、僕みたいな先の短い人間にとっては、大規模修繕や建て替えの問題とか、地震や水害といった自然災害が起きた時のことを考えると、金輪際、タワマンなどに住みたいとは思わない。19年10月の台風19号で、武蔵小杉のタワマンで浸水による全棟停電が起きたのは記憶に新しいが、タワマンでエレベーターが使えないとか、トイレの水を流せないとか、悪夢でしかない。

となれば、「利便性」を重視して、一時的にタワマンに居住するとしても、タワマンを「終の棲家」などとは思わず、適当なところで売り抜けるというのが賢明な選択肢なのであろう。所詮は、「仮の住まい」であり、もっと言えば、売買を前提とした「金融資産」みたいなものである。最後まで持ち続けた結果、ババを引くのは、愚かなことでしかない。

ところで、同じ区分所有建物という意味で、タワマンと同じような深刻な問題を抱えているのが、大阪・梅田にある「大阪駅前ビル」である。関西人には馴染みがある物件であるが、JR大阪駅前の一等地に、第1ビルから第4ビルまで、4棟のビルが建っている。この中で最も古い第1ビルは、70年4月完成で、最も新しい第4ビルでも、81年7月完成である。

この大阪駅前ビルの最大の問題点は、特定のオーナーが所有する物件ではなく、区分所有建物になっており、権利者が大勢いることである。区分所有者が何人いるかは知らない。たぶん膨大な人数になるのであろう。ここは、もともとは戦後の闇市があった場所である。不法占拠していたような連中に対して、大阪市が市民の血税を使って、立ち退き費用を払い、地権者を整理し、建設したビルであると聞いたことがある。

大阪市がオーナーとしてのポジションにとどまらず、区分所有建物にした理由については、はっきりしたことはわからない。立ち退き費用を払う代わりに、等価交換方式で区分所有権を与えられた地権者も存在したという話を聞いたことがあるので、そのことも理由の1つかもしれない。あるいは、こんな厄介な物件に、いつまでも関わり合いたくないと思ったのかもしれぬ。

地下1階・2階は、飲食店街になっていて、お手軽価格の飲食店で平日でも賑わっている。地上階の方は、オフィスとして利用されていて、地方自治体の大阪事務所、ローカル局の大阪拠点、クリニック等が入居している。全体としての印象は雑然としている。はっきり言えば、カオスな状態である。東京の「ニュー新橋ビル」に雰囲気が似ているし、あまり大阪駅の玄関口には似つかわしくない雰囲気である。

建物自体の老朽化が進んでおり、いずれは建て替えを検討しないといけなくなるのだろうが、大阪市はオーナーではないから、膨大な人数の区分所有者をまとめるような骨の折れる仕事を積極的に引き受けるとは思えない。完成から既に50年前後経過しているから、権利者の相続も発生しており、当初と比べても権利関係が複雑になっているのは間違いない。権利者を特定して、議論のテーブルに着かせるだけでも、気が遠くなるような大仕事であろう。

それこそ、南海トラフ地震でも起きて、梅田周辺が津波で押し流されてしまい、大阪駅前ビルも破壊され尽くされてしまえば、いっそせいせいするだろう。梅田周辺はもともとは脆弱な湿地帯である。地名自体、昔々は、「梅田」ではなくて、「埋田」だったと聞いたことがある。大阪に津波が来た場合、御堂筋よりも西側(=海岸寄り)は、水浸しになると言われているから、大阪駅周辺は、きっと甚大な被害を受けることであろう。

でも、幸か不幸か、何事も起こらなければ、100年後も現状のまま、やがて老朽化して倒壊するか朽ち果てるまで、放置され続けることになるに違いない。

日本中のタワマンにも、この「大阪駅前ビル」と同じ未来が待っているような気がしてならない。

じゃあ、どうすれば良いのだという話になるが、妙案があるわけではない。しかしながら、ざっくりと言えば、不動産に対する私権に対して一定の制約を設けて、公共の福祉、社会全体の利益を重視する観点から、行政による介入をある程度は許容する方向に、法整備や制度改革を進めるしかないように思うのだ。

そうじゃないと、狭い日本の国土に、誰も手を出せないような老朽化したタワマンやら再開発ビルやら、空き家、空き地ばかりが放置されてしまい、結局、誰も有効に活用できないということになりかねないような気がする。

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