「キャピタルフライト」について
「キャピタルフライト」(Capital flight)という言葉がある。「資本逃避」のことであり、政治や経済の混乱などにより信任を失った国から、他国へ資金を一斉に移動させることを示す場合が多い。経済的に魅力のない国に対して投資をしていた場合は、投資をしていた資金を一斉に引き上げる。外国企業などの撤退も含まれる。
日本は、「失われた30年」などと言われるとおり、バブル崩壊以降、経済成長がほぼ止まってしまっている。91年頃の株価を起点として、その後の30年間の「日経平均株価」を見ると、ほぼ横ばいであるのに対して、同じ期間の「NYダウ」は約13倍になっている。どちらの方がマーケットとして魅力的であるかは明らかであろう。
もちろん日本でも着実に成長している企業はあるが、個別企業の良し悪しを素人が見きわめるのは難しい。30年ほど前に、投資信託の「インデックスファンド」におカネを投資して放置していたとすれば、日本株投資であれば、ほぼ増減しなかったのに対して、米国株投資であれば、およそ13倍になっていたという話を聞けば、誰もが日本株ではなく米国株に投資しようと思うだろう。
「NISA」の抜本拡充が決まり、1,000兆円の預貯金の一部は投資へと向かいそうであるが、<マネックス証券によると、つみたてNISA口座の6割は米国株を中心とする海外株投信を購入している。22年11月の買い付け首位は米株に連動する「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」。上位10ファンドのうち日本株投信は「ひふみプラス」だけで、あとはすべて米株や世界株の投信だ。>とのことであり、あまり成長が期待できない日本株におカネが向かわないのは確実である。
加えて、<日本の運用会社は海外株投信を自力で運営しているわけではなく、実は米欧金融機関に多くを委託している。日本勢には海外株の高度な分析ノウハウが十分にはないからだ。><国内勢が米欧運用会社に支払う委託費は巨額。国内大手運用9社の「委託調査費」は1125億円(22年3月期)と前年度比25%増え、9社合計の純利益(1040億円)を上回る規模になった。「貯蓄から投資へ」の流れが強まれば、国内運用部門の空洞化も強まる皮肉な構図にある。>という構造も見逃せない。投資が活発になっても、儲かるのは日本の金融機関ではなくて、海外の金融機関ということになる。
日本の家計は2,000兆円の金融資産があり、企業部門も内部留保を積み上げている。なのに、国内投資ではなく海外投資におカネが向かうのは、国内に魅力的な投資先が乏しいことと、金融機関の実力不足が原因である。複雑な税制、参入障壁、言葉の壁が邪魔をしている。
<英シンクタンクが調査する「国際金融センター指数(GFCI)」をみると、東京は世界16位まで地位を落とした。1990年代後半の「日本版金融ビッグバン構想」では、東京をニューヨーク、ロンドンに並ぶ国際金融都市にすると目標を掲げてみせた。それが今では、アジア太平洋地区だけでもシンガポール、香港どころか上海やソウル、シドニーにまで追い越されている。>とあるように、金融の世界でも、日本は世界から落ちこぼれつつある。
英国は、金融のウィンブルドン化によって、世界中のプレイヤーをロンドンに集めることに成功した。足元に世界有数の規模の金融資産が唸っているのに、それを国内でビジネスにつなげることができないのは、本当にもったいない話である。
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