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忘れ物について

もう若くないせいか、昔に比べると、我ながら「鈍くさい」なあと思うことが多々ある。

どこかに腰を掛けたり、立ち上がったりする時、「よいしょ」と言うのは、当たり前のこととして、ちょっとしたことでも、メモを書いておかないと、ド忘れてしまったりする。フルマラソンを完走するくらいだし、同年代の普通の人と比べたら、健康や体力に自信がある方なのだが、それでも若い頃と比べたら、疲れやすいし、衰えを感じるのはやむを得ない。

先日はとうとう、外出先でキーケースを落としてしまった。

この日、ちょっとした所用があり、新大阪から新幹線に乗って、小倉まで行った。あまり詳しい行先までは書かないが、在来線に乗り換えて向かった先で用事を済ませて、その時点になって初めて、ズボンのポケットに入れていたはずのキーケースが見当たらないことに気づいた。

キーケースには自宅のカギだけしか入れていない。家内も一緒だったし、とりあえずの不都合はないのだが、紛失したままだと翌週以降の行動に差し支える。防犯のため、普通のシリンダー錠よりも少々値の張る特殊なカギであり、家族の人数プラスアルファのスペアがない。追加で合いカギを作るとなれば、たぶん数千円くらいかかるし、すぐには無理であろう。

その日の朝からの自分自身の行動を反芻してみると、おそらく新幹線の車中で落とした可能性が高いと思われた。そこで、ダメ元とは思いつつも、JR西日本の「落とし物」担当に電話をする。JR西日本の管轄は、博多駅までであり、そこから先については、JR九州に問い合わせてもらわないとわからないとのこと。乗った列車は、鹿児島中央行きであった。そこでJR九州の「落とし物」窓口にも連絡を試みる。こちらは電話ではなくLINEで受け付けるようになっている。

紛失物の具体的な形状、乗った列車と乗車した車両・座席番号等をLINEで伝える。すぐに返信があり、現時点では該当するキーケースの届出はないこと、今後、該当しそうな物が見つかったら連絡を入れるとの回答内容であった。

果たして、翌日の昼前になって、JR九州からLINEで連絡が入り、熊本駅で僕のキーケースと思われる落とし物を保管していること、熊本駅まで直接受け取りに行くか、あるいは着払いで自宅に送付することも選択可能であるという説明があった。

熊本まで取りに行く時間はなかったので、自宅に送ってもらうように依頼したところ、翌々日には宅急便にてキーケースは無事に戻って来た。落とし物の捜索依頼をしてから、3日目のことである。

LINEの向こう側が、人なのか、AIなのかは知らない。もしかしたら、AIで前捌きをして、最終的な判断業務は人がやっているのかもしれない。それにしてもである。通話中の電話に何度も架電することもなく、電話口で延々と待たされることもなく、LINEでのテキスト・チャットによる非同期コミュニケーションのみでのやり取りであるから、ストレスは限りなくゼロである。

電話とか、ZoomやSkypeのようなビデオ・チャットによる同期コミュニケーションは、手っ取り早い反面、双方の手が空いた状態でなければ成立しない。相手の状況がわからない場合、相手を暴力的に拘束してしまうかもしれない。却って効率が悪いのだ。その点、非同期の場合、そうした心配はない。双方とも自身の都合に基づいて返信すれば良いだけだからである。

コロナ渦以降、リモートでの在宅ワークとか、オンライン診療とかが、従来と比べて急速に普及した。昔と比べると、便利になったものである。もちろん、リアルに顔を突き合わせることができれば、それが最善であることは言うまでもないが、リモートでもやれることはたくさんある。場所を移動するのに必要な時間を考えれば、リモートの方が便利だし効率が良いという場合もある。要は、それぞれのメリット・デメリットを考えつつ、うまく使い分ければ良いのだ。

リモートでの繋がり方についても、ビデオ・チャットや電話のような同期コミュニケーションと、メール、テキスト・チャットのような非同期コミュニケーションの手段がある。これらについても、それぞれのメリット・デメリットがあるし、うまく使い分ければ良いのだ。「何が何でも同期じゃないとダメ」というものではない。

オンライン診療においては、原則として同期コミュニケーションが推奨されているようだが、非同期コミュニケーションでは用を足さないかとなると、必ずしもそういうわけではないと思う。医師と患者の双方が都合の良い時間帯を利用してやり取りすることの利便性とか、テキストが残ることで、後で何度も読み返せるという利点も捨てがたい。クスリの服用方法などは、その方がちゃんと正しく理解できるだろう。

コロナ渦が一段落したことで、どこの会社もオフィスに人が戻ってくるようになった。もちろん、リアル出社できるものならば、そうすれば良いのだが、コロナ渦の最中、リモートでも十分にこなせることが判明したような業務であれば、わざわざ通勤のために時間やおカネをかけてまでリアル出社する必要はない。リアルかリモートかという二者択一の発想ではなくて、業務ごとにどういう働き方が最も効率的なのか、適宜、判断しつつ、うまくハイブリッドさせれば良い。

忘れ物の件に話を戻すが、企業のいろいろな照会・問合せ窓口に関しては、なかなか繋がりにくいコールセンターよりも、JR九州みたいにLINEや、チャットポットのような非同期の受付窓口の方が、双方の業務効率化に資するのは明らかである。いつ電話をしても話し中であったり、延々と待たせるようなコールセンターでは、却って企業イメージを悪化させる効果しか期待できないだろう。

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