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"ハードゲー過ぎる”日本の自動車業界がオワコン化を乗り越えるための「今必要な2つの戦略」

【要点】

・カーボンニュートラル政策発表及び自工会からの声明発表に伴い、日本の自動車業界を「オワコン」とする意見が上がっている

・日本の自動車業界は「売れない」「儲からない」「支援もない」ハードゲーの中で戦ってきた

・高い品質とHV技術によって世界で躍進を遂げている日本自動車産業だが、急激なEV化、ベンチャー台頭により、「オワコン」になる可能性がある

・「オワコン化」を乗り越えるために2つの戦略が必要

オワコン化が叫ばれる日本自動車業界

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20年末からの日本の自動車業界への風当たりが強くなっています。発端なったのは10/26日の菅首相の所信表明演説

温室効果ガス排出量を2050年までに実質ゼロとする目標を宣言

CO2排出、これまで主に欧州や中国、またアメリカ、カリフォルニア州で規制が進んでいたんですが、ここにきて日本も本格的に規制強化へ。

いきなり2030年半ばには純ガソリン車の新車販売を禁止という目標を発表。新しいものにはとりあえず乗っていけスタイルの東京都知事、小池さんは「2030年には東京都で新車販売禁止」を打ち出しました。

これに対して自動車業界は声明を発表。簡単にまとめると

「カーボンニュートラルは全力でチャレンジしていく。ただ自動車業界これまですごくCO2排出削減に取り組んできたし、そもそもカーボンニュートラルにするためには電力構成の見直しやらインフラ整備、電力供給も必要なわけで国としてエネルギー政策の支援よろしく。雇用も含めて、ガソリン車も含めた全方位の戦略でいきます」

自動車業界側からすれば、もっともな話なのですが、世界が電動化、特にEV化の気運が高まる中で、従来のガソリン車を含めた全方位の戦略に世間からはバッシングの嵐

テスラが年間50万台近くのEVを販売し株価は日本の自動車メーカー全社を足した額よりも大きくなり、中国では新興のEVメーカーが次々と現れ、全個体電池を搭載した車両も発表。欧州でもVWが「ID.3」「ID.4」と販売開始し EVラインナップを増やす中で、日本メーカーはEVの投入は未だにわずか。

垂直統合型モデル、これまでの「ケイレツ」を活かした日本の自動車業界のビジネスモデル、既存のしがらみに縛られ、世界の潮流に乗り切れない。かつて日本のお家芸とされていた「家電」「携帯電話」のように凋落していく、「日本の自動車業界はオワコンになる」ではないかという意見があちこちで聞かれています。

確かに今のテスラの状況、ファンのつき方、批判のされ方はかつてのApple、Iphoneの初期の状況とよく似ており、同じ道のりを辿っているように見えます。

ハードゲー過ぎる日本自動車業界の環境

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2020年、世界の自動車生産トップはトヨタだったわけですが、そもそも日本の自動車産業自体がかなりハードゲーで戦ってきた歴史があります。

まずお膝元の日本なんですが、まずクルマが売れません。日本で一番車が売れていたのは1990年の777万台でそこからは右肩下がり。2020年の販売台数は460万台。今後も数は増えず横ばいか減少が予測されています。

なぜクルマが売れないのか。まずは十分に発展した公共交通機関。都市部では電車、バスなどの移動手段が充実しているため、クルマが生活に必要ありません。(東京都の1人当たりの自動車保有率は0.44で全国で最も少ないです)。海外では郊外に自宅を購入し、クルマで通勤するライフスタイルが主流の国も多いですが、日本では大都市を中心に電車通勤の割合が非常に高い。

しかも「ステータスとしてのクルマ」の価値は日本では下がり続けています。バブル期のような「モテるために良いクルマを買って、ドライブに誘う」といった価値観はどんどん薄れています。若年層の低賃金化もあり、クルマを買うハードルは非常に高い。

「でっかいピックアップトラックを買って仕事、プライベートで使い倒す」
「海外の高級輸入車を買うことが富の象徴でメンツが何よりも大事」

アメリカや中国ではクルマはこのようにまだまだステータスシンボルとして機能していて、販売は伸びています。

「いつかはクラウン」今の日本の若い世代には全くわからない価値観でしょう。

しかも日本車は品質が優秀であるためになかなか故障もせず、買い替えも進みません。しかも人口も減っていくので、市場の拡大も見込めない。日本はクルマが売れない、縮小市場なのです。

加えて売れるのは軽自動車やコンパクトカーといった小さいクルマばかり。小さいクルマの生産には高い技術力が求められ、十分に魅力的な機能、価格で販売できる日本メーカーは素晴らしいのですが、いかんせん低価格のため、1台当たりの利益は少ない。稼ぎ頭のSUVや大型車、高級車の割合は日本は他国比べ高くありません。

さらにさらに日本は海外と比べ自動車産業に対しても国の支援がとても薄い。日本の自動車税は欧州よりも高く、アメリカと比べれば約30倍。

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コロナ禍における支援でも差があり、ドイツは低排出ガス車購入時の補助額を増額(EV最大9000€、PHEV最大6750€)といった大幅な支援に対し、日本では購入補助はEV40万円、22万円(次年度以降条件付きで増額)。

自動車産業は裾野が広く波及効果が大きいため、世界各国は積極的に生産誘致、設備投資支援を行っていますが、日本での政府支援は電池など限定的で決して多くはありません。

「売れない」「儲からない」「支援も薄い」日本自動車業界はこんなハードゲーの中で戦ってきました。

日本自動車業界が発展できた理由

ハードゲーの中でも世界に誇れるクルマを作り出し、日本の自動車業界は発展を遂げてきました。

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その理由は海外で販売台数を伸ばしてきたから。日本で作ったクルマの半分以上は海外へ輸出。部品を送って、現地の工場でも生産を実施。

日本のクルマは高い品質を武器に世界で販売を広げていきました。20年のアメリカ、コンシューマーレポートではブランド別・自動車の信頼度ランキングで1位:マツダ、2位:トヨタ、3位:レクサス(71)でTOP3を独占。日本車の品質の高さ、壊れなさは間違いなく世界から認めています。

加えてHVの技術なら日本メーカーは断トツでTOP。化け物です。今、一番燃費が良いであろうHV車、ヤリスHVの燃費は36.0km/L(WLTCモード)。実燃費でも30Km/Lを超え、高速では40Km/Lも狙える高性能。CO2排出という観点から見ても現段階ではテスラ、モデル3を十分に超える性能。現段階で価格、環境負荷を考えれば最もコストパフォーマンスの良いクルマに違いありません。

ただあまりにも特出したHV性能であるがゆえに、HVでは海外メーカーは日本勢にはかないません。そこで、パリ協定、「CO2排出削減」という大義名分の基、海外各国では自国メーカーに有利なるようルール変更が進んでいます。

特に欧州。欧州メーカーはディーゼルを推し進めた経緯がありましたが、排出不正問題で開発を断念。HVで先行を挽回すべく、一気にEVへの変換を図ることで販売を伸ばそうとしています。国策として自動車産業を盛り立てる中国は次世代車であるEVを優遇し、海外からの資本も積極的に受け入れています。テスラのお膝元、カリフォルニア州では排出ガスを一切出さない電気自動車や燃料電池車(ZEV:Zero Emission Vehicle)を規定量販売しなければならないZEV規制が施行され、2035年には全量ZEVとする目標が掲げられています。

ハードゲーを勝ち抜き、販売を伸ばし、世界で認められるクルマを作ってきた日本自動車業界。「日本のクルマ、スゲー」「Japan as No.1」と現段階で言える唯一の産業かもしれません。

しかし、各国での急激なEVシフト、そしてテスラといった既存メーカーのしがらみにとらわれないEVベンチャーの台頭によってその地位は揺らぎつつあります。日本が誇っていた高い品質も「内装のドアが違うグレード」「屋根が吹っ飛ぶ」「ECUの耐久年数が5~6年くらいしか考えていない」というテスラが世界中で売れに売れていることを考えると過剰品質なのかもしれないですし、EVに関していえば明らかに海外メーカーに比べ、販売ラインナップのは遅れています。

日本自動車業界はこのまま「オワコン」になるのでしょうか。

日本自動車業界を「オワコン化」しないための2つの戦略

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日本自動車業界、これからどうやって戦い抜いていけば良いのでしょう。
まず、「海外でガンガンEVを作って売っていく」。クルマを売っていくにはこれしかありません。現段階あと5年くらいはHVが圧倒的に優位、世界の中でも競争力に優れ、販売台数を大きく増やすことができるでしょう。

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何かと話題のテスラ取締役、水野さんのツイート
「HVはもって10年ではないか」「当初2035年くらいに一般消費者のEVへの転換が始まると思っていたが2025年くらいになるのではないか」は的を射ています。
コロナ禍もあって一気に電動化が進んだ結果、当初の予定よりもEVガンガン出していかないと世界では勝負できなくなる、勝負しに行く頃には他の海外メーカー/ベンチャーに独占されて突き入る隙がないなんて事態に陥りかねません。

縮小市場、右ハンドル、作っても儲からない日本市場は一旦置いておき、海外でガンガンEV作っていきましょう。

日本におけるEV化でネックになるのは部品構成が変わって、大きく雇用のあり方が変わってしまう点。年初の自工会のメッセージでは550万人の雇用をアピールして、日本の自動車業界の重要性を訴えていました。(ガソリンスタンドで働く人が出てくるのが象徴的)

日本ではガソリン車を作り、輸出という形で販売、海外工場でEV化を先に先行させ、地産地消で生産。日本国内も徐々にEV化を進めることで雇用へのダメージを抑えていく。
どうしても既存の関係性をすぐに壊すことができない以上、こうしたソフトランディングを目指し、かつ競争力を保っていく

「世界で電動化、EV化も進めていく」
「日本の雇用も守る」

「両方」やらなくっちゃあならないってのが「日本自動車業界」のつらいところだな

と考えてくれるのかはわからないのですが、海外の厳しいルールに合わせる以上、計画を前倒ししてでもEV化に対応していく他ないでしょう。

もう一つは「クルマを売らない」。何言ってんだと思われるかもしれませんが、クルマ単体ではなく移動、モビリティというサービスを提供しなければ、この先利益を上げていくことは難しいでしょう。そもそも自動車業界は利益率はトヨタで8%、ホンダで2%と高いものではありません。参入障壁の高さ、また販売台数の多さでこれまで利益を上げてきました。

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事業プロセスと付加価値の関係を示すスマイル・カーブ。EV化によって電池のコスト高、新規企業の参入による競争激化が起こるとすれば、製造、組み立ての「メーカー」としての付加価値、利益はより低くなる可能性が高い

自動車の開発がハードからソフトウェアに移行することに合わせて、販売した後のソフトでより儲けていこうじゃないかという戦略です。
現にテスラでは自動運転のソフトウェアは別売り、サブスクリプションでの販売も予定。PS5並みの性能を持ったゲーム機を搭載予定。中国のEVではマリオができるなんてクルマもあります。ソフトウェアが中心の設計となれば、販売した後にアプリとして機能を追加する、車内の空間をいかに過ごすかを後付けで売り出すなんてことも可能になります。
トヨタは「モビリティカンパニー」を打ち出し、「ソフトウェア中心」の開発を宣言。自動車のWindowsのようなOSを進めることを発表し、より広い視点で言えばモビリティを含めた都市計画に参入を始めました。
もはやクルマを売っているだけの時代は終わり、いかに移動を提供するのか、そこに自動車メーカーが入れるのかの時代になるでしょう。

ただそうした時にサービスのプラットフォームの競争相手になるのはアメリカGAFAMや中国のBATHといった資金力、決断の早いIT大手になるわけで生き残っていくのは今以上にハードゲーになるのかもしれません。

このまま何もしなければ、日本の自動車業界は既存のしがらみに囚われ、決断力の遅さもありEVで先行されて競争力低下。家電と同じような道筋をたどり、残されたガソリン車を細々と作る、またはIT大手の製造請負、下請けとして自動車を生産していく。550万人の雇用も大きく失われ、国としても停滞していく……そんな最悪のシナリオも考えられます。

カーボンニュートラルという大義名分を掲げ、有利なルールで勝負してくる欧州。金、設備、人材を国策としてガンガン投入し、一気呵成をかける中国。EVで量産の波に乗ったテスラ、数々のEVベンチャーを排出、IT大手も控えるアメリカ。これまでの関係性も重視しながら、太刀打ちしていかなくてはならない日本自動車業界。これからの難易度はハードどころじゃすまないかもしれません。

ただ全固体電池という隠し玉や培ってきた高い品質レベル、新しくチャレンジする都市計画といった戦略でなんとかこの激動を乗り切って、

環境そんなもん関係ねえ。乗ることが楽しいクルマ、ガソリンの匂い、この振動がいいんじゃねえか、ガハハ

のようなトヨタGRヤリスだったり、マツダ直6
FR、ラージだったり、日本自動車業界思い切ったクルマたちを出していってほしいなと思うわけです。

マジでガンバレ、日本自動車業界!!


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