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「若者のすべて」を聴きながら家族みんなで夜の観覧車に向かった話

最後の花火に今年もなったな

何年経っても思い出してしまうな

ないかな ないよな きっとね いないよな

会ったら言えるかな まぶた閉じて浮かべているよ

フジファブリック「若者のすべて」

子どもの頃、親と行った旅行はあまり楽しめた思い出がない。阿蘇の高原で馬にビスコを食べられたり、ディズニーランドのシンデレラ城の前で記念写真を座って撮ろうとしたら、妹が後ろに倒れて大泣きした。覚えているのはそんな残念なエピソードばかりだ。「○○に行こう」と親から誘われても「ええーっいやだぁ」と乗り気でなかったことを覚えている。
自分が親になってみると、子どもたちのリアクションも概ね同じである。「キャンプに行くぞ」と誘うと、「家でニンテンドーswitchしていたい」「iPadでYouTube見ていたい」とかなり億劫な返事をされ、行った先では「ねえねえ、いつ帰るの?」と急かされる。
「子供のころ、どっかに連れて行かれるの本当に嫌だったんだよね」は大変よく聞く話だ。自分の子どもたちもそんなふうに語るのかもしれない。

今年も子ども2人、妻と含め家族4人で音楽フェスにキャンプ泊まりがけで行った。かれこれこのフェスに行くのは5回目で、家族4人で行くのは去年に引き続き2回目だ。このフェスの好きなところは出演アーティストの良さもあるが、全体の雰囲気だ。出店が多数あり、お酒からかき氷まで美味しいものが揃っている。遊園地でも自由に遊ぶことができる。海辺の砂浜で水遊びもできる。1歳に満たないような小さい子もたくさん来ていて子どもたちも楽しめる、そんなフェスだ。
去年は妻の帽子が飛ばされてしまって、海へ流されてしまい、子どもたちが号泣した(そしてジェットスキーのお兄さんが拾ってくれた)。一年ぶりに来たものの、そのエピソードは子どもたちに大きなインパクトを与えていて、海へ行こうと行っても一向に来てくれなかった。
ただ1年前とは少しずつ違っている。長男はボルダリングにチャレンジし、無事に登りきった。次男はジェットコースターに初めて挑み「宇宙まで飛ばされそうだった」と楽しそうに語った。去年は妻と子ども2人の面倒を見るのに精一杯で1人もアーティストを聞きに行くことができなかったのだが、今年は一番聴きに行きたかった羊文学を聞きに行くことができた。
朝イチからたくさん遊んでたくさん食べて、そして夜が来た。去年なら子どもたちは疲れきって寝ていた19時過ぎ。子どもたちはまだ元気だ。暗くなって、各地でライトが灯る。
「観覧車に乗りに行こう」ふと思い立って家族に提案する。
怖いから嫌だ、ゆっくりしていたいという次男をなだめすかしてテントを出る。遠くからはメインステージでトリを務めるフジファブリックが締めにかかっていて代表曲である「若者のすべて」を演奏し始めていた。

世界の約束を知って それなりになって また戻って
街灯の明かりがまた 一つ点いて 帰りを急ぐよ

途切れた夢の続きをとり戻したくなって

フジファブリック「若者のすべて」

ようやく着いた観覧車から見えたのメインステージで溢れる人、そしてイルミネーションで光り輝く遊園地。

遠くではまたフジファブリックの演奏が続いている。徐々に高度が上がっていく中見える風景はとてもきれいで、子どもたちも目を輝かせて周囲を眺めている。ゆっくりと進む1周13分の観覧車。
このひと時を忘れることはないと思う。きっと死ぬ直前の走馬灯にも出てくるだろう。1番上まで来た時に「まだ半分もある」と言って笑ったことも含めて。

子どものころ、面白くなかった家族旅行。でもなんだかんだ言っても覚えているのは、家でゲームをしていたことではなく、どこかに行った記憶ばかりだ。確かにその時は良い思いはしていないのかもしれない。ただその瞬間を両親と兄妹と過ごしたことは忘れていない。

最後の花火に今年もなったな

何年経っても思い出してしまうな

ないかな ないよな なんてね 思ってた

まいったな まいったな 話すことに迷うな

最後の最後の花火が終わったら

僕らは変わるかな 同じ空を見上げているよ

フジファブリック「若者のすべて」

時間は有意義に過ごさないといけない。タイパが何よりも大事だ。普段はそんなふうに考えて、日常を少しでも「有意義」に過ごせるように日々を精一杯なんとか生きている。でも大事な瞬間はタイパなんかじゃ測れない。「イマ・ココ」を心の底から堪能できる。そんな時間を作り出すために時間を節約しようとしていることは忘れちゃいけない。

フェスから帰ってきて1週間。「Alexa、若者のすべてをかけて」と話しかけて、子どもたちが「さいごのーはなびーにー」と歌い出す。この曲を聞くたびにあの観覧車でのひと時を思い出す。多分これからもずっと。

来年もまた同じフェスに家族みんなで行けたら良いなと思う。今年は怖いと言って乗らなかったアトラクションは来年は乗れるだろうか。1組だけ見に行けなかったアーティストは来年はもう一つくらい見に行けるだろうか。そして、また夜の観覧車に家族みんなで乗りに行こう。
また次男はごねるだろうし、長男も海に行くのはまだ嫌がるだろう。「本当は行くの嫌だったんだ」と語られるかもしれない。でも、非日常の、家族みんなで過ごす時間、親のエゴかもしれないけれど、ちょっとだけ付き合ってほしいんだ。

「若者のすべて」の中のサビのワンフレーズ。
「何年経っても思い出してしまうな」そんなひと時を家族と少しでも多く作れたら。そんなことを考えている。


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