「ラインを止めるな!」寸断されたサプライチェーンと変わる“自動車業界ヒエラルキー”
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「ラインを止めるな!」寸断されたサプライチェーンと変わる“自動車業界ヒエラルキー”

「部品の欠品によって、完成車メーカーの製造ラインを止めてはならない」

  完成車メーカー及び部品メーカーにとって、工場の生産をつなぐことは至上命題。自動車1台に使われる部品は3万点。一つでも部品が欠ければ作ることはできません。完成車工場のラインを止めてしまうと、損失は1分で数百万、使用される他の部品の納入にも影響を与えます。

 何が何でも部品欠品を起こさない。完成車メーカーのラインが止まるのは、自然災害やTier1の仕入れ先で大々的な事故が起きた場合(直近の例)のみ。もし納入が危険な仕入れ先があれば、完成車メーカーの社員が現場に入って状況確認し、タイムリミットまでに意地でも製品を作り出す。

 コロナ禍から回復に向かい、いざ生産挽回だ!と意気込んでいた2021年。部品欠品により、日本、そして世界で相次いで完成車メーカーの工場が停止。稼働調整に追い込まれました。今2021年8月でも次々と生産調整が発表され、未だに完全解消の見込みは見えていません。

 コロナ禍以前では考えられなかった部品欠品による生産調整。この記事ではその要因、現状、そしてこれからどのようになるのか。そして、この部品供給状況が変える自動車業界のヒエラルキーについて解説します。2021年最も注目され、業績への影響も過大な部品供給問題。自動車業界に関わる方はもちろん、クルマのことなんてさっぱりという方にもわかりやすく説明します。

1.完成車メーカーはどれだけ減産になったのか

 20年末に報道された21年年明けからの大幅減産。国内生産で1月から大きな影響を受けたのは日産、ホンダ、SUBARU、三菱。

 新型ノートの発売時期と重なり、業績回復に向け販売台数を増やしたい日産でしたが、1月から数千台規模で生産調整し、その幅も拡大。稼働休止や夜勤取りやめなど21年に入ってからは毎月稼働調整を実施。

 ホンダも主力の鈴鹿工場を1月から操業調整。売れ筋であるFITやN-BOXが影響を受け、日産同様毎月稼働調整し、生産台数が伸ばせない状況に。

 SUBARUは生産台数に対しての減産幅が大きく、1~3月だけで海外を含め6万台の減産。年間の生産規模が100万台程度のため△6%と非常に大きな数量に。4月以降についても大規模な生産調整が続いています。

 三菱に関しても21年に入ってから減産が続き、3月には4000台規模に。4月以降減産幅は拡大し、海外含め4月7500台、5月16000台、6月30000台、7月は国内のみで20000台。8月も生産調整が続き、他社同様非常に厳しい生産状況にあります。

 マツダは2月から減産を開始。当初は稼働の休止はなく、残業や勤務体制の調整で減産していたものの徐々に減産数量が多くなり、7月には遂に防府工場を10日停止することに。

 スズキは4月から工場の稼働が一部停止。8月まで毎月稼働調整が行われ、コロナ前の19年と比べると生産量は大きく落ちています。

 そして部品の調達力の高いトヨタグループも遂に6月には工場を休止し調整する事態に。21年に入ってから、残業調整等で減産はしていたものの、工場の休止は回避していたダイハツ、トヨタ。しかしながら、6月にダイハツ滋賀工場、トヨタ東日本、岩手、大衡工場で減産へ。7月末から富士松、そして8月には高岡工場も稼働休止日が設定され、減産が実施されています。

 国内工場を中心として減産情報をまとめましたが、海外工場も同様、もしくはそれ以上の減産となっており、グローバル全体でコロナ以前では考えられない大規模な生産調整となりました。

 海外メーカーは日本メーカー以上に減産を強いられています。VWでは20年末からすでに中国などで減産が開始。米のビッグ3でも生産調整は21年1月以降実施され、グローバル全体で減産へ。その影響は日本よりも大きく、北米の累積減産台数は7月16日時点で167万8,000台、コロナ前2019年の2割にまで達します。

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  2020年はコロナによるロックダウンで大幅減産となりましたが、今年2021年の減産は部品の供給問題が原因です。なぜこれほどまでの減産となったのでしょうか。

2.部品が足りないのは半導体だけではない

 今年2021年の減産、直接の理由は「半導体不足」です。先進機能の追加によって年々増加していた車載半導体使用量。21年に入り、自動車メーカーの生産要望数に対し、供給能力が不足。結果、これほどまでに大幅な減産に至ったのです。

 しかし、実は供給問題が起きているのは半導体だけではありません。半導体の影に隠れてはいますが、現状起きている問題は他にも3点。この3点も決して生産に大きな影響を与えているのです。

 半導体も含めた自動車業界が抱える部品供給問題4点について、要因、現状について解説します。

3.部品供給問題①:車載半導体不足

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 2021年、自動車メーカー減産の主要因は「車載半導体不足」です。すでに多くのメディアで報道されているので、ご存知の方も多いでしょう。

 なぜ2021年までは問題なかったはずの車載半導体が急に問題になったのか。一番大きな理由はコロナ禍における生産調整です。20年2月以降中国から始まったロックダウンとそれに伴う工場/販売の停止。各自動車メーカーかつてないほどに減産となり、部品メーカーが車載半導体の注文を調整し大幅減。しかし、世界市場の回復で20年秋から急きょ生産を増やして半導体の注文を拡大。ただパソコンやゲーム機、スマホ向けの高機能半導体の生産で余裕がなく、一般的で利幅が薄い車載用の生産は後回しになり,半導体不足が深刻化しました。

 不足を補うべく車載半導体を増やそうとした矢先、半導体大手の工場で大規模なトラブルが発生します。一つ目が米テキサス州を襲った大寒波による停電。スマホ向け半導体などで5%の世界シェアを持つ韓国サムスン電子、車載用半導体で世界首位の独インフィニオンテクノロジーズと2位のオランダNXPセミコンダクターズの現地工場が操業を停止。 国内でも3月、車載向けが3分の1を占めるマイコンで約2割の世界シェアを持つルネサスエレクトロニクスの那珂工場で火災が発生して生産を停止。完全復旧には3か月以上の時間を要し、逼迫状況はより悪化しました。

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https://www.nikkei4946.com/knowledgebank/visual/detail.aspx?value=283&page=2#list より引用

自動車の需要拡大に半導体供給が追い付かない。結果、世界各地で減産が実施される事態に至ったのです。

4.部品供給問題②:樹脂原料不足

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 半導体の影に隠れていますが、自動車生産に大規模な影響を与えているのが「ナイロン原材料不足」です。ナイロンはエアバッグやエンジン周辺の部品など広範囲で使用されています。このナイロンの原料、ヘキサメチレンジアミンやその原材料となるアジポニトリルは世界で4社が独占して製造しており、工場は北米に集中。生産能力にも限りがあり、21年以前から供給不足の懸念がありました。

 この背景のもと、半導体同様、20年秋以降の自動車メーカーの急激な需要拡大で需要>生産となり、生産が追い付かない状況に。そして、供給がひっ迫している中で起きたのが、半導体でも触れた米テキサス州を襲った大寒波。原材料を作る北米の工場が停電で停止。これらの工場では一度操業を止めると、再稼働には時間を要する+設備改修工事が重なり、一気に情勢は悪化します。

 21年2~3月にかけて、原材料の供給メーカーであるデュポン社及びその先のナイロンの供給メーカーである東レが契約上の義務の不履行に対する免責を顧客に求める「フォース・マジュール(不可抗力条項)」を宣言自動車部品メーカーの要望に対し、希望数量が入らず、対象のナイロン樹脂を使用した部品欠品のリスクが顕在化します。

 半導体供給不足の数量が大きく、減産がすでに決定されているため、樹脂不足が原因の稼働調整は現状なされていません。しかし、半導体問題がなければ、樹脂不足により工場が停止していた可能性もあり、決して見逃すことのできない問題です。

5.部品供給問題③:混乱するグローバル物流網

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 20年春、コロナ禍で世界各地でロックダウンが起こり、低迷した各国の生産/販売。しかし、そこからの回復は想像以上に早く、中国では夏以降、北米では秋以降急激に生産はV字回復し、出荷は増大します。そこで問題となったのが「物流」でした。

 生産≒輸出量の急激な回復、そして巣ごもり需要に伴う輸送量の増加。主に中国、アメリカ間の取引きが大幅に増え、20年夏以降、海上輸送量は2019年よりも増加します。アメリカ西海岸の代表的な港、ロングビーチ(ロスアンゼルス)では2020年の年間コンテナ取扱量は過去最高を記録。直近1年(2020年7月~2021年6月)の月平均取扱量では、新型コロナウイルス感染拡大前の2019年比23%増とかつてない数量になっています。

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https://www.jetro.go.jp/ext_images/biz/seminar/2021/59fb1a9fda39da8e/PortofLongBeach_JETRO.pdf より引用

 ここで不足するようになったのが、製品を入れて運ぶ「コンテナ」。コンテナ不足の原因は多岐にわたります。

1つ目は「新造コンテナの生産量低下」。コロナ禍以前の2019年は米中貿易摩擦に伴う荷動き低迷の懸念から、生産量前年比40%減激減。2020年初頭もコロナの先行きが不透明のため、コンテナ生産工場稼働率が大幅に低下し、新規のコンテナが作られていませんでした。

2つ目が「アジア発北米向け貨物の急増」。上記のとおり、20年夏以降中国で自動車、機械、電機などの生産がV字回復、米国の巣ごもり消費で、家具、玩具、家電等の輸入増加し、一気に輸送量が増大しました。

3つ目が「港湾作業員不足によるコンテナ処理能力低下」。北米の主要港にて荷物を揚げる港湾作業員がコロナ感染、潤沢な休業給付金支給により集まらず、荷役が遅れ、コンテナ処理能力低下しました。結果、船が着いても港の前で滞留・混雑が発生し、1週間~2週間船が留まったままといった事態にまで至りました。1つの港に船が留まることにより、影響は世界全体に連鎖し、世界中で海上輸送が遅延、船が港の前で待つ沖待ちが深刻化しました。

 物流の混乱は21年8月現在でも解消されておらず、コンテナ不足解消のために滞留している空のコンテナのためだけに船を手配し、運搬することすら行われています。また、逼迫した状況により海上運賃は大幅に向上し、コスト増にもつながっています。

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https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001403344.pdf より引用

 半導体、樹脂でそもそもの部品が足りないのに加え、完成して製品を送ろうとしても物流も遅れている。自動車メーカーへの部品供給はこれまでにない異常事態に追い込まれ、減産を余儀なくされたのです。

6.部品供給問題④:再拡大するコロナ感染

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 そして、コロナ禍は依然収まらず、感染を広げ、再び部品供給に影響を与え始めました。コロナを抑え込んだとされる中国、ワクチンの接種が始まった北米ではコロナ感染防止策が解除されていき、通常の生活に戻る一方で、21年5月以降東南アジアを中心に感染は拡大し、ロックダウンが再び行われています。

 マレーシアやタイ、インドネシア等でロックダウンにより工場が停止。しかもロックダウンされても感染拡大が収まらなかったことから、より規制は強化され、工場の停止期間も長期化していきました。グローバルで展開する自動車業界では仕入れ先が東南アジアに工場を持ち、日本や中国、北米に部品を輸出するサプライチェーンを構築している企業も多数あり、影響を大きく受けています。在庫を多く持って対応していたとしても、ロックダウンが長期化、1ヶ月を超える国も出てきており、部品の必要量に対し不足が生じ始めました。トヨタ7月末での富士松工場の稼働を停止,及び日産8月米南部テネシー州の完成車工場の生産を2週間休止はこの東南アジアの感染拡大によるものと報道されています。

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子育てにてんやわんやの自動車部品メーカーに勤める30代サラリーマン。読書や料理が趣味。子育てやら仕事やら勉強やらについて語ります。