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【訂正有】【EVは本当に環境に優しい?】値下げされたテスラ、モデル3、ガソリン車よりもCO2排出が多い問題

こちら記事にて使用しましたCO2排出量、76.5%増加、(83.5kg/kWh X1.765=147.4kg/kWh)に関して誤りであるという指摘を受けまして訂正記事を発信させていただきました。つきましてはこちら下記記事をご参照いただければと思います。
また本記事にて誤解を招いてしまい大変申し訳ございません。



要点

・テスラモデル3が値下げ、上海ギガファクトリーで生産し、日本に輸出される予定
・中国では現状、電力構成において、化石燃料が主流となっており、生産時のCO2排出量が多くなる
・生産から廃車までのLCAで、CO2排出を計算すると中国産モデル3はガソリン車、MAZDA3 よりもCO2排出量が多くなる

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2月中旬、テスラ、モデル3、突然の値下げが発表され、日本中が騒然となりました。

「ロングレンジAWD」(電池容量:75kWh)では655万2000円を499万円へと156万円値下げ。「スタンダードレンジ プラス」(電池容量:50kWh)は511万円から429万円へ。補助金込みだと350万を切って買えることも可能。

機能や設備を考えると圧倒的なコストパフォーマンス。中国やアメリカでは値下げが発表されていたので、日本でもいずれ…とは思っていましたが、いきなりがっつり値下げ。正直「EVはテスラしか勝たん!」といった状況になっています。

さて、今回の値下げは生産がアメリカ、フリーモント工場から中国、上海のギガファクトリーに変更になったことによる原価低減が要因とされています。(ちなみに上海工場の方が最新設備が導入されているので、組み付けの品質は高そうとの噂)


ただ中国は現状、電力構成で化石燃料を使用した火力発電がメインでCO2排出が多いはず…
バッテリー生産時に多量の電力を使用するEV。中国で作るとLCA(生産から廃車まで)CO2排出量が増えるのでは?
前回はHVとEV、LCAでのCO2排出量比較を行いましたが、今回は中国製モデル3とガソリン車(MAZDA3)の比較を行なってみました。
果たしてその結果は…

中国の電力構成とCO2排出量

こちらの記事をベースに現状の中国の電力構成、CO2排出原単位について見ていきましょう。

2019年、中国の電力構成は70%弱が火力発電です。中国政府は再エネ活用に力を入れていますが、再エネが使われていくのはこれから。現在は電力を作る際に多くの化石燃料が使用され、多量のCO2が排出されます。

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(引用: EVは本当にCO2排出削減にならないのか?(前編) 〜欧州で検討中のLCA規制とは
世界各国との比較は下記の図の通り。中国のプロットが1つしかないのでわかりづらいのですが、640g-CO2/kWh(2018年)。ちなみに日本は463g-CO2/kWhです。
(フランスは原子力メインなんでめっちゃ低いですね…)

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(引用: EVは本当にCO2排出削減にならないのか?(前編) 〜欧州で検討中のLCA規制とは

中国でのバッテリー生産時にCO2排出がどれだけ増えるのか

では中国でバッテリーを生産するとどれだけCO2は増えるのでしょう?この問題を扱った論文がこちら

「Life cycle inventories of the commonly used materials for lithium-ion batteries in China」ということで題名そのままなのですが、実際にどれだけ増えるのかというと

This will lead to 62–91% more greenhouse gas emissions from materials made in China than those in the United States in order to produce LiB cells of the same capacity.
同じ容量のLiBセルを生産するためには、中国製の材料からの温室効果ガス排出量が米国製よりも62~91%多くなることになる。

とかなりCO2排出は増える模様。(ただしモデル化やデータ取得のプロセスに多くの違いある上でとの注釈付き)今回はこの中央値、76.5%増加するとしてLCAでのCO2排出を計算してみましょう。

比較の前提条件

evsmartさんが以前マツダ論文と比較されていたので、同じMAZDA3と比較します。

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基本的な条件は前回のHVとEVの比較と同様にします。
中国製のテスラ、モデル3、バッテリー生産時のCO2排出量を76.5%増加(83.5kg/kWh X1.765=147.4kg/kWh)として計算。他の条件は同じです。

MAZDA3についてはevsmart さんが使われているSKYACTIV-X搭載、X PROACTIVEのWLTCモード(17.2Km/l)をEPA換算した燃費推定値は15.3km/lを使用、ガソリン1リットルを燃やした場合に出るCO2排出を2320gで計算します。

また今回は先ほどの記事にあった9.6万キロを日本でのライフサイクル中の走行距離とします。

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(引用: EVは本当にCO2排出削減にならないのか?(後編)〜欧州で検討中のLCA規制とは

LCAでのCO2排出比較結果

さて果たして計算結果は…

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ライフサイクル走行距離9.6万キロとした場合、MAZDA 3の方がCO2排出量が少ない結果に。逆転するのは10万4080Kmから。EVの方が環境に良いと思われがちですが、実際のところガソリン車、カタログ燃費WTLP17.2kmよりもCO2排出は多くなっています

その他HVを含め、日本のライフサイクル走行距離を9.6万kmとした際のLCA、CO2排出量は下記のグラフの通り。現状ではHVが一番CO2排出量が少ないのです。

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各分類ごとでの走行距離別CO2排出量は下記の表のとおり。

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この比較では「ガソリンを運ぶ際のCO2排出が含まれていない」「発電ロスが考慮されていない」などお互いにツッコミどころはありますし、中央値で計算しているため、下限や上限に変えれば結果は変動します。ただ手にとれる範囲のデータでなるべく中立になるよう計算した結果、「ガソリン車の方がCO2排出が少ない」となり、まあ実際のところかなり僅差のレベルなんだと思ってます。

またこれはあくまでも現状でのLCAの排出データであり、今後大きく変わってきます。バッテリー生産時の技術革新や再エネへの移行によりEVのCO2排出量は今後減っていく見込みです。ただし、中国製についてはHVとの差は大きく、実際に追いつくのは中国が火力50%を切り、現在の日本、アメリカ並みのCO2排出になる2030年以降でないと難しいでしょう。

とはいえEV早く移行せんとまずい

「現状のEVはLCAでのCO2排出はさほど有利ではなく、HVがCO2排出1番排出が少ない。電力構成が変わり、EVが環境に充分優しい、コストも抑えられてから移行しよう」


データから考えれば、その発想は至極当然です。日本メーカーもそう考えて、EV開発を進め、HVも活かしてカーボンニュートラルを実現していこう…と思っていたはずなのですが、予想以上にEV化の加速が進んでいます

2020年欧州でのEV、PHEV販売台数の伸びはすさまじく、力強く増加トレンドにあります。中国では、新興メーカーのEV参入が相次ぎ、アメリカではバイデン政権になって、パリ協定に復帰。大手3社も矢継ぎ早に新規EVを発表。テスラも値下げ攻勢でまた販売を伸ばそうとしています。

CO2排出がすくないかどうかはさておき、EVに移行していかないとまずい状況にあり、日本メーカーは開発のスケジュールを見直し、前倒ししていかないことには世界で戦っていくことが厳しくなってきます。

そして真のカーボンニュートラルを進めていくためには電力構成を含めた日本の国としての政策、方向性を示すことがとても重要…なんですが、他の国を比べるとすごく具体性にかけますし、お金と人材も投入されていないんですよね(原子力をどうするかも日本ではすごくセンシティブな話ですし)

日本自動車業界はEV開発に遅れていると批判されがちですが、実際カーボンニュートラルという観点からすれば、実は今EVに移行したところでそれほどCO2排出は減らず、エネルギー政策、技術革新含めEVの優位性が確保された段階で移行するのが妥当ではあります。

ただそうした広報については上手くいっておらず、

日本メーカーは既存の技術に固執して、環境問題に積極的でない、遅れてる

と特にEV推進派の方から批判されがちです。

ただ現状では「環境に優しいEVが正義!」は必ずしも正しくありません。

実際テスラ、モデル3を買う理由の大半は「テスラだから」「コスパがいいから」「最新機能が優れているから」であって、環境に優しいからという人はほとんどいないと思うのです。ただ「持続可能な社会のためにEVは環境に優しいんです、ドヤァ」は間違いで、中国製モデル3はガソリン車に負ける、もしくは同等レベルのCO2排出量になります。

真に環境に優しいクルマを作っていくために、官民含めた技術開発、エネルギー政策の見直し、支援、そして実際の環境負荷の啓蒙なり報道を上手くやっていってほしいなぁ、日本政府と自動車業界。

マジでガンバレ、日本自動車業界!!

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