見出し画像

おいスタバ

スタバの注文をスマホで済ませられる機能があるのを知ったのは、前の職場の先輩と銀座を練り歩いてるときだった。
「すごいんだよ、これ。モバイルオーダーっていうの。店員と話さずに会計済ませられるの。注文したら店に取りに行くだけ。いいんだよ、店員と話さなくていいんだよ」
興奮しきった、少し前を歩く先輩が言いたいことはわかった。人と話すのが苦手な私が店員と話さずにオシャレなスタバの飲み物を飲める方法を教えてくれているのだ。
「スマホにアプリ入れてね、そこからお金入金しといて、それでいいの。あとはスマホから注文するの、あ、そう、店舗も選んでね」
彼女に教えられながら、私は夜の銀座の街を歩きながらスマホにスタバのアプリを入れていた。こんな日が来るなんて思わなかった。スタバなんて友達に誘われて行くレベルだったからだ。だけど熱心に教えてくれる先輩の気持ちを裏切るわけにもいかず、そのままスタバのアプリの中に入金までしてしまったので使わなくちゃなと思っていた。
都心の店舗以外ではモバイルオーダーが対応していないと知ったのはその日の夜だった。家の近くにオープンしたばかりのスタバでモバイルオーダー試してみようかななんて思っていた私の期待は華麗に散った。
池袋に住んでいる先輩には、田舎者の私の気持ちはわからなかったのだ。
それからもう一年近く経つと思う。
今は私の家の近くの店舗でもモバイルオーダーが利用できるようになっている。夜の銀座をマスク無しで気軽に練り歩くことは逆にできなくなってしまったけれど。
今日なんとなくスタバのコーヒーが飲みたくなった。家から少し離れた店舗で初めてモバイルオーダーを利用してみた。受け取る場所がわからずに店舗の周りをぐるぐるぐるぐる3周くらいしてようやく店員に聞く勇気が出た。もうそれしか方法が思いつかなかった。
笑顔でコーヒーを渡された。
結局店員と話すんかい。先輩に今更突っ込んでいる。
「.......エチオピア......」
前後の言葉は周りの人々の声で全く聞こえなかったのにエチオピアという言葉だけははっきりと聞こえてきた。エチオピアのコーヒー豆を使っているということだろう。
電車のホームに、スタバのコーヒー片手に立つ。近くのスタバの店舗にアルバイトの応募を昨日していたことを思い出して、面接の日時決定のための連絡はないかとメールを確認した。案の定、「予想を上回る応募があったので矢野藍様の応募の受付ができない状況となりました」というメールが来ている。
昨日募集し始めたばっかりなのに。変なの。と思いながら、エチオピア産のコーヒーを、電車のホームで飲んでいる。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?