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「田舎教師」「ひとり居の記」「本心」「森へ行きましょう」「なつのひかり」

「田舎教師」八重桜が広がり、主人公清三には新しい生活が広がっている・・と始まる。なんと今の季節に読むのにふさわしいではないか。のちに世間をざわつかせたらしい「蒲団」を発表するとは思えないのどかな文章が続く。細かく丁寧な描写は古い映画や時代劇ドラマを見ているような気分にさせられ、騒々しい世界から離れ心はどんどん静かに穏やかになっていく。「スウイトな」とか「ドマドマしてしまった」などの表記はすっかり耳にしなくなったけど「エモい」という言葉を思い出す。明るくのどかで、理想や野心の描写は1年、2年すぎるうちだんだん、寂しく空虚な描写に変わっていく。・・一体いつ頃の話なんだろうと思うころ、「明治36年」「日露戦争」の文字が現れる。NHK大河ドラマ「青天をつけ」のラストあたりかと納得する。心はしーーんとしたまま読み終わる。

「ひとり居の記」鉄道の話が多く「鉄オタ」??ではなく「散歩ブーム」の火付け役の一人であったと知る。「ホテルローヤル」の話題でようやく私にもわかるっと思える話が出てきた。旅の話から始まり、本、絵画、映画と話しは広がる。観てみたい映画、読んでみたい本が多く出てくる。親戚にこんなにも博学で行動的な方がいて、いろんな話を聞けたらどんなに楽しいだろうと思いつつ読了。他にも読んでみよう。震災以降も、盛岡をはじめ東北各地を意識的に旅している様子は、東北に住んでいるものとして嬉しく思った。

「なつのひかり」栞は「途方にくれてしまった」が口癖だ。21才の夏は、やどかりのナポレオンに振り回される他、本当にややこしい出来事があって、奇妙な日々だった・・。読みながら私もすっかり途方にくれてしまったり、少し寂しい気持ちになったりわけわからずいらいらしたり・・ナポレオンが登場すると笑いが生まれよい緩衝材になってくれた。読みだしてまもなく、西野七瀬さんの顔が浮かび(=栞)、脳内をユーミンの曲が流れた。「どうしてどうして僕たちは・・」から始まるのだ。・・栞とナポレオンの冒険(じゃないけど・・・)ファンタジー・・

「森へ行きましょう」・・ようやく読了・・長い長いお話だった。留津・ルツ・るつ・・同じ名前の女性の一生0歳から60歳までのそれぞれの物語、彼女たちの父母、オット、子供、友人知人等々同じ名前で設定。最初は混乱したが次第に名前は同じだけど全く別々の物語として読むようになった。恋愛、結婚、お金、生きる事とはどういうことか等々・・を提示してくる。結婚についての考察のページはほぼ流してしまった・・興味ないのね私は・・と思う。「人生は森の中を歩くこと」「想像の中でなら人生はいくらでも取り換えがきく」なるほどなと思い言葉もあれば、留津の「なんて受け身な人生を送ってきたのだろう・・p274」という言葉に「これは私のことだ」と心が痛んだ

「本心」・・実母の死を受け入れられない29歳自己中でひとりよがりで時に5歳児駄々っ子のようなふるまい言動を見せるサクヤはVF母を購入する。VF母=母というサクヤに憎しみを感じる私( ;∀;)。・・読書中何度も「何かおかしい」と自分の感想を確認する。そうしないとこのも物語の世界は素晴らしいと思えてきそうだから。よくできている小説だ。不安にさせて少しの希望となる出来事が起きる~の展開を繰り返しちるうちに、現実はきつい、だからVFや仮想空間で一息つくのはいいことではないかと思えてくる。これが怖い。一息では済まないから。「面白い」よりも「不気味」「不快」「怖い」と思いながら読み進めている。私はVF母はまっぴらごめん。気持ち悪いし死者を冒涜している気がするから。「実質的同じ」≠「同じ」というサクヤの考えに共感できたしサクヤを信用できたページにほっとする。が「実質的同じ」=ニセモノは傲慢だと続く。傲慢とは思わないがニセモノだと思う。様々な考え方が提示されているが、共感できる、共感できない等、いろいろ考えるポイントはたくさんあった

実母の死を受け入れられない29歳自己中でひとりよがりで時に5歳児駄々っ子のようなふるまい言動を見せるサクヤはVF母を購入する。VF母との生活の中で様々な経験をつみ成長していくサクヤの物語・・途中、村上春樹の小説みたいな感じだなとも思う。テーマがたくさん詰め込まれていて結局どれも浅い結論に終わっていないか??と思わないでもない。物語最終近くp409「死こそ他者と共有されるべきじゃないか」と出てきたときは・・えっここでまた新たな気付きか。。と強い疲労感。私は物語の筋以外のサクヤの母が味わったかもしれない絶望感のほうに興味がわきあれこれ想像し涙したい気持ちだった。

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