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おつかれさまの、毎日に。

11月に学研プラスから『おつかれさまスープ』という本を出した。

タイトルどおり、疲れている人たちにおすすめするスープのレシピがたくさん載っている。

とはいえ、みんなが抱えている「疲れ」の実態はそれほどわかりやすいわけではないと、本を作りながら思った。

「とにかく、私たち疲れているんです」

編集をやってくれた、20代のオカダさんと30代のナガミネさんは口を揃えてこう言った。このテーマで本を出すと出版社が決めたということは、多くの若い人たちが本当に疲れているということなのだろうと私は思った。おそらくその疲れは、いま50代半ばとなった私が日々感じるようになった疲れとは、少し性質が違うものだ。

そもそも私は20代の頃、疲れを感じたことがなかった。どんなに動いても、朝起きるとけろりとしていた。若ければそうなのだろうと思っていた。しかしいま、若い人たちがこんなに疲れている。それは現代の環境が昔よりずっと過酷だからなのだろうと思う。

仕事で会う若い人たちはみんな優秀で、仕事もできる。正直自分の若い頃はこんなにいろいろなことはできなかったし、言葉も達者ではなかった。
もちろん彼らの能力の高さもある。でもやっぱり無理して、すごくがんばっている部分もあるのだろう。

疲れの理由

疲れの原因にはさまざまある。

食事がおろそかになっていて栄養が十分でないのかもしれない。ちゃんとごはんを食べない人は肉体的に弱い。疲れやすかったり、風邪をひきやすかったり。

時間がないのかもしれない。それほど残業がなくても、仕事から帰って寝るまでの時間はわずかに4~5時間。
家事をやるとさらに時間を削られる。なかでも料理は買い物から片付けまで、時間をごっそり奪っていく。忙しいときにバタバタ作って食べて片付けてをやっていると、食べたカロリーと料理するためのカロリーはもしかして同じくらいなのではないか?!と思ってしまったりする(もちろんそんなこと、あるわけないけど)。

現代特有といえるのは、心の疲れだ。力量を超えたオーバーワーク、絶え間なく流れてくるネットの情報や、過敏になりすぎたコミュニケーション、将来への不安、仕事と家庭の両立。心が忙しすぎる。

疲れを吸収してくれるクッション材としての人々

そんな社会の中で、人を癒してくれる存在もすっかりいなくなってしまった。

昔は家に帰るとお母さんがごはんを用意して、自分たちの帰りを待っていてくれた。それだけではない。お節介だけれどあったかいおばちゃんがいて、ろくでもない冗談ばかり言うおじさんがいて、説教くさいじいちゃんと線香くさいばあちゃんがいた。

いつも自分のことより人のことばかり気にして、ときにはずけずけと、ときにはやさしく、本気で自分を心配してくれる。会社の中にも、そういう人はいた。
まあ、ちょっとばかり面倒だなと感じることもありつつ、思い返すと、当時の自分にとってそれほど興味のなかった人たちが、私の疲れをうまく吸収してくれていたんだな、そう思う。

そういった存在が少しずつ消えていき、かといってその役割を代わりに担う人もシステムもなくて、社会は全体に疲れているような気がする。思いのほか人には向上心があるから、一旦がんばる方向へ進みだすと、ストップさせるような何かがないと立ち止まれなくなる。休みなく効率と到達点のことばかり考える日々。これは、疲れると思う。

どこかで一休みさせてあげたいと思いつつ、私たち年長者は若い頃にしてもらったように若い人たちの疲れを癒せないし、止めることもできない。

のんびりするときの、お助けスープ

そんな気持ちで作った『おつかれさまスープ』。
ほんとうは1ヵ月ぐらい南の島で何も考えずのんびり身体と心を休めてもらいたい。でも、そうもいかないだろう。
せめておいしいものを簡単に食べてほしい。疲れた人たちを、ほんのひととき癒せないだろうかと思いながらレシピを考えた。

一人分、レンジを利用したりコンビニ食材や冷凍食品を使ったレシピも加えた。それぞれのシチュエーションに合わせて、自分を一番癒してくれるスープを選んでもらったらいい。

一皿のスープにそれほどの力があるわけではない。でも、働いて、戦って、疲れて家にたどりついたときに、おかえり、今日も一日おつかれさま、さあさあ休んで休んで、といっているようなスープをイメージした。

簡単スープを掲載したが、どうしても無理なら作ることも休もう。家に帰ったら、決まりごとなく、ゆるーくだらだら過ごしていいんだ、いやむしろ、だらだらしなきゃいけないんだってことが、伝わったらいいなと思う。

(写真をクリックすると、Amazonに飛びます)

トップ画像のスープは、表紙の『海老とアボカドのスープ』の、パスタをスパゲティに変えたもの。アボカドは、加熱するとすごくクリーミーでおいしくなる。癒しの味です。

読んでくださってありがとうございました。日本をスープの国にする野望を持っています。サポートがたまったらあたらしい鍋を買ってレポートしますね。