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【第2章】その29✤ベアトリスの記憶---その2

ランカスター家のジョン・オブ・ゴーントの血を二重に引くベアトリス家系図。その親戚の中にはマリー・ド・ブルゴーニュの祖母や、マクシミリアン1世の母もいる



 エリザベスとマーガレット---2人の妹とそしてエドと私は、8歳から12歳の間よく一緒に、それこそ4人で本当の兄弟姉妹のように過ごしていた。もっとも私以外の3人は本当の兄妹だったわけだけれど……。
 
 2人の妹達はよく私達の言うことを聞いてくれた。お願いするとなんでも喜んで手伝ってくれたし、言いつけもよく守ってくれるとても良い子供達だった。
 
 私達は森で怪我をしている鳥やリスやハリネズミを見つけたことがあり、しばらく4人で世話をして元気になったら森へ返す、というようなこともしていた。中には救うことができずに死んでしまう場合もあって、そんな時には2人の妹は本当に悲しんで泣きじゃくり、私達に抱きついて離れようとはしなかった。
 
 そんな可愛い妹達と、たいていはいつも一緒にいたのだけれど、でも遠出をする時には、私とエドは2人だけで猟犬を連れて出かけたりもしていた。まだ幼い2人を遠くに連れ出すことが心配で、連れて行って色々見せてあげたいとは思うものの、
「もう少し大きくなってからね」と2人には言い聞かせていたのだ。
 
 そしてそんなある日、エドが12歳になる時、2人で森の奥まで遠出していた時にエドが言った。
「リシィ、僕もそろそろ父さんや兄さんの所へ行って、騎士になる訓練をしなければならないんだ」
そうだった、1年前にエドワードも同じように旅立ったではないか、貴族や王室の子供というのは12歳から騎士になる訓練を始めるのだ。そうしたらエドはもう1年に1回くらいしかここには帰ってこなくなる、エドワードのように…。
 
 エドとはこの4年の間、毎日一緒にいたので、その彼がいなくなってしまうということは本当に悲しい出来事だった。
エドは言った。
「リシィと離れるのはとても寂しい」と……。
その日はその後、2人とも何も喋らず、その数日後にエドは発った。
妹2人はやはり泣きじゃくっていたけれど、私は泣くことはできなかった。いつも一緒にいた彼が突然いなくなり、その変化に気持ちがついていかなかったのだ。
 
 それからは私は庭にある植物の世話を一心にしていた。城で皆が食べるための野菜やハ-ブを育てていると悲しみを忘れることができたから……。そして美しい赤い薔薇は大輪の花を咲かせていた---時々薔薇の棘で腕が傷だらけになることがあっても、それでもエドのいない悲しさでいっぱいの心より痛くはなかった。
 
 なぜ、こんなに悲しいのか……私は彼に恋しているのだと、彼がいなくなって初めて気が付いたのだ。エドと楽しく笑っている夢を見ると嬉しくて、側にいない彼をいつも頭の中で追っていた。
 
 ところが、それはまだ私達の人生の中では平和な時だったのだ。

 それから約1年後に、私達ランカスター家とそしてエドのヨーク家にとって大きな事件が起こる。1455年のことだった。

 
 
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