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老いても忘れたくないことありますか?(小原信治)

忘れちゃいけなくなったもの

 冬になると体が痒くなるのがここ数年の悩みだった。アレルギー体質かと思いきや皮膚科の血液検査は問題なし。内臓疾患かと思いきや人間ドックも問題なし。原因不明のまま対処療法としてステロイドの塗り薬を処方されるも塗ったところか直ると別のところが痒くなるというイタチごっこ。今年も痒い季節がやって来たなとセカンドオピニオンで訪れた別の皮膚科であっさりとこう言われた。

「あー、これね。単なる加齢による乾燥ですよ」

 処方されたのはヒルロイドという保湿ローション。娘が赤ん坊のときおむつかぶれに塗ってあげていたのと同じものだ。診断は正しかった。それを朝晩、全身に塗るようになっただけでここ数年の痒みがピタリと止んだ。

 リーディンググラス。そしてヒルロイドローション。老いとともに手放せないものがまたひとつ増えてしまった。身軽でいたいと私物を必要最低限に切り詰めているぼくとしてはとても不本意ではあったが、生きていくために手放せないもの、忘れちゃいけないものが増えていくのが「老い」なのかもしれない。

 というわけでここ数回、藤村くんも書いている「老い」の進行具合から筆を走らせてみたがあなたと比べて53歳のぼくの老いはどうだろう。「視力」「潤い」「髪の毛」「聴力」「筋力」「歯」とこの先も老いとともに失っていくものを別のもので補っていくのだと思う。いや、補えるのであればそれでいい。老いとともに失っていくものの中には決して現代の医学や科学では補えないものがあるからだ。それが今回のテーマである「記憶」である。

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