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ベルばらブーム前夜

何気なく手に取った一冊の「宝塚グラフ」誌。

表紙は松ちゃんこと松あきら。この時はまだトップスターと言う言葉も無く、彼女も人気あるスターの一人として表紙になっていた。一枚ずつページをめくると、当時よくある大劇場周辺で撮影された感じの、安奈淳が大きな木の間に立った写真や、鳳蘭が使われた広告などもある。このツレちゃんの広告は、今のようにカード会社とか銀行とか、化粧品というような宝塚スターのイメージに合うものではなく、なんとキッチンの生ごみを集めるごみのネットの広告だった。

他には大滝子のポートレートや、当時まだ若手スターだった大地真央の写真などもある。阪急沿線の観光地を生徒が周り、阪急電車の宣伝もしっかりやっている。

宝塚グラフは昭和十一年創刊で、歌劇誌が読み物に対して、その名の通り写真を多く載せたものとなっている。第二次世界大戦の影響で廃刊になるまでは、今の宝塚グラフの二倍の大きさで発行されていた。

さて、この松あきらが表紙の宝塚グラフだが、とにかくのんびりしている雰囲気が伝わってくる。平和そのものの、良き時代の宝塚という感じだ。いつのものか調べてみると、昭和四十九年の十月号とあった。昭和四十九年といえば、あの日本中を宝塚歌劇ブームに巻き込んだ「ベルサイユのばら」の初演の年だ。確か九月が初演だったと覚えていたので、もう一度中を見ると、編集のあとがきに「ベルサイユのばらで、新しいファンが増えて来たのがわかる」と、たった二行書かれているだけで、写真こそ二ページあったものの、他には何も書かれていない。つまりこの号は、ベルばらの初演の開催月の直後に締め切りがあり、ぎりぎり写真と二行のコメントが載せられたが、あの空前の宝塚歌劇ブームの様子は書けなかったものと推測できる。私も実際、このベルばらブームの前後を見て来ただけに、この号の内容が、まさに「嵐の前の静けさ」そのものであったことがわかる。そして、私はこの次の号がとても気になった。

敬称略
出典 宝塚グラフ 昭和四十九年十月号

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