嶋田 薫

純文学作家。 小説いろいろ書いています。

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『百年の孤独』 解説

文庫化したら世界が滅びると言われていた『百年の孤独』、ついに文庫になりましたね! これを機に筆者も読んでみたのですが、まぁ分かりづらい! ということで、この難解な作品に悩まされている同志に向けて、個人的に整理した物語の内容を投稿してみようと思います。 この作品は、登場人物の名前がほとんど同じであったり、非現実的な描写が当たり前のように描かれていたりする作品なので、おそらく、混乱して読めなくなる人も多いと思います笑 数日前に読了した筆者が、筆者なりに物語を整理してみました。筆

    • エッセイ「緑の光」

       恋人のりかちゃんに「明日も仕事なんだから、早く寝なさい」と言われても、素直に寝れない夜がある。心は寝たがっているのに、身体は起きていたい、と言って聞かないような夜。今日がその夜だった。そんな夜は、部屋を出て、夜の商店街を散歩するようにしている。  最近、そんな夜が増えた。大学生の頃は、毎日夜更かしをしていても特に支障はなかったけれど、当然、社会人の朝は早いわけで。社会人になって一、二ヶ月では、大学生の頃の習慣は抜けないようだ。  自宅から最寄り駅までの道の途中に喫煙所がある

      • 小説 『床が青い』 9

         僕は湖のほとりにレジャーシートを敷き、その上に座っている。辺りには若干の霧がかかっていて、湖の先はよく見えない。僕の背後には、小屋がある。僕が何年も使っている小屋らしい。何の音も聞こえてこない。とても静かな場所だ。朝なのか、昼なのか、夕方なのか。釈然としない。  湖の向こうから、誰かが湖面を歩いてくる。一歩ずつゆっくりと。けれども速く。スラッとした体型で、背も高い。ボロボロの白い布をまとい、土で作られたような茶色の仮面をつけている。何の特徴もない、目と、鼻と、口だけの仮面

        • 小説 『床が青い』 8

           窓の外の世界では雨が降っていて、通行人は皆、当たり前のように傘をさしている。僕意外の全てが、順調に進んでいた。 「やあ。はじめまして」うずくまる僕の右隣で、絶望はあぐらをかいている。 「食べるなら早く食べてよ」僕は呟く。 「食べるって、何を?」 「とぼけるなよ。僕を食べに来たんだろ」 「君を食べる?とんでもない。君をいたぶりに来たんだよ」絶望は微笑んだ。  僕は顔を上げて、絶望の方を見た。そこには何もなかった。けれども、絶望は確かにそこにいる。存在だけが、透明人間のように漂

        『百年の孤独』 解説

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        • エッセイ
          1本
        • 床が青い
          9本

        記事

          小説 『床が青い』 7

          「また会ったね」暗闇が嬉しそうな声で言う。「もう会えないかと思ってた」 「僕もだ」リノリウムの床に立って、僕は言う。「もう会いたくはなかったけど」  ホームルームは、真夜中の暗闇で満たされている。ホームルームだけじゃない。校庭。廊下。体育館。トイレ。図書室。屋上。理科実験室。何処もかしこも、この暗闇で満たされているのだ。想像するだけで、感動と興奮と恐怖に背筋がゾクッとする。何もかもが寝静まり、風の音すら聞こえない。完璧な静寂に、僕は心を躍らせる。 「ここには何があるんだ

          小説 『床が青い』 7

          小説 『床が青い』 6

          「希望、見つけたよ」上り電車のロングシートに座っている僕が呟いた。 「そうか。それは何より」向かいの窓に映った彼が、微笑みながら言う。「これで、ひとまず安心ってところだな」  僕は頷く。 「彼女は僕の希望だ。彼女がいたから、僕は生きることができた。彼女がいたから、今の僕がいるんだ。彼女のことで、悩んだりもしたけど、やっぱり彼女は、僕にとっての希望だった」  大いに喜ぶ僕を、彼はただ、優しい笑顔で見守っている。 「初めて見つけたよ。希望ってやつを。この世には存在しない

          小説 『床が青い』 6

          小説 『床が青い』 5

           僕の左隣を歩く彼女の視線は、少し下に向いている。彼女の眼には、何が映っているのだろう。僕には想像もつかないような、美しい世界が広がっている気がする。想像しただけで愛しくなる。 「今日も、寄ってく?」僕は訊いた。 「うん。いいよ」彼女は答えた。  僕たちの通う高校の通学路は、他の高校に比べてものすごく長い。話しながら歩くと三〇分はかかる。それは、一人で歩くと持て余し、二人で歩くと丁度よく、三人で歩くと物足りない長さだ。「カップルのための道だよ」と土屋先生が言っていたのを

          小説 『床が青い』 5

          小説 『床が青い』 4

           北に向かえ。地図にはそう書いてあった。僕は手に持ったコンパスで、北を目指し続ける。砂の山の隆起が、美しく妖艶な輪郭を帯びて、僕の視覚に訴えかけてくる。何度、その曲線に魅惑され、足を止めたことか。全て結局、近づけばただの砂の集合体だった。  何処まで行っても、荒涼とした砂漠が広がっている。僕の頭の片隅に、果たして本当に北なんだろうかという疑いがこびりついている。僕は地図をまた開く。 「北に向かえ」地図には確かにそう書いてある。数時間歩いて、また確認する。北に向かえと書いて

          小説 『床が青い』 4

          小説 『床が青い』 3

           希望もなければ、絶望もない。それが僕の高校生活だ。  不満なんて何一つない生活だった。今だって、概ね満足している。そこそこの人脈。粒ぞろいの友人たち。中の上の成績。人並みの恋愛経験。良くも悪くも平均的な生活だ。人から妬まれるほど富んではいないけれど、不憫というほどでもない。僕にとっては、それで十分なのだ。  希望はいつも、僕の手のひらからこぼれ落ちていった。まるで、蛇口から流れ出る水を掴もうとしているような、そんな感覚だった。正直、希望とは何なのか、僕にはよくわからなか

          小説 『床が青い』 3

          小説 『床が青い』 2

          「忘れないでくれ、レイラ。私の半分、君の半分。我々夫婦は、その二つでできているのだから」通学路を歩きながら、樋口が下手な演技を披露している。 「その意味不明な劇をやめろ」安浦が言った。「人目につくところで演劇なんかするな」 「人目に着くところでするのが演劇だろ」僕は呟く。 「そーだそーだ」と樋口が横で囃し立てる。 「俺は演劇が嫌いなんだ」安浦は僕たちの方には目を向けず、静かにそう返した。 演劇部の樋口は、いつも突然、演技を始める。僕は彼の演技が好きだ。誰が見ても素

          小説 『床が青い』 2

          小説『影』

               1  その一軒家には影が二つある。一つは山田の影。山田の影は家の至る所に現れる。リビング。廊下。書斎。トイレ。階段の小さな踊り場(この家は小さいながら階段に踊り場がある)。キッチン。食卓のテーブル。寝室。もう一つの影は、応接間にしか現れない。しかも、呪われたことには、応接間には誰もいないのである。あるのは影のみで、本体がいない。煙のように儚く、しかしはっきりとした人間形の影が、部屋の隅をうろうろと動き回るのだ。  その影は何年も前からこの家に存在していた。山田が

          小説『影』

          小説 『床が青い』 1

             床が青い  ビー玉の中に閉じ込められたような気分だった。固く、静謐なガラスに包まれて、身動きがとれない。身体がとてつもなく重たい。外は一体、どうなっているのだろう。視界がぼやけて、よく見えない。何処までも美しい球体の中で、どうにか抜け出そうともがき続ける。動けないとわかっていても。  いつからだったか、詳細は覚えていない。毎晩、金縛りに遭うようになった。真夜中になると、僕の体は自由が利かなくなって、自分自身に裏切られたような、切なく苦しい思いをした。魂だけが体と離れ

          小説 『床が青い』 1