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仕事や人間関係を豊かにする「傾聴力」とは?

ライター、エッセイスト、大学非常勤講師、ライター塾やオンラインサロンの主宰の他に、お手紙チャネリングや私設図書室の開設など、幅広い分野で活躍する江角悠子さん。ここまで活躍できるようになった秘密に、「傾聴力」があるという。江角さんが大切にしている「傾聴力」とは?


プロフィール 
江角悠子(えずみ・ゆうこ)
ライター、エッセイスト、同志社女子大学非常勤講師。京都市在住。「書いて、しあわせになる」をテーマに活躍中。雑誌『婦人画報』WEB『京都おつけもん探訪記』等で記事を執筆。書籍『亡くなった人と話しませんか』の構成を担当。自主制作ZINE『文章を書いて、生きていきたい』『わたしは、まじめちゃん』をオンラインショップで発売中。





聞き役になることが、子どもの頃から多かった

 「口下手で、自分の気持ちや考えを言葉にするのが、苦手な子どもでした」と、話す江角さん。大人になってからも、その傾向は長く続いたそうだ。友人と会っても、相手の話を聞くばかりで、自分の話をするタイミングがつかめないことが多々あったとか。
 まずここで私は、白状しなければならない。こちらが聴く立場であるインタビュアーなのに、江角さんの聞き上手な振る舞いに導かれ、取材中に自分語りを長くしてまうという失態を、私は犯してしまったのである。
 江角さんには思わず自分の話をしたくなってしまう。その理由を探るために、取材時の映像を見直してみた。すると江角さんは、相手の話を聴くときに、むやみに身体を動かしていないのだ。
 相手に「聴いています」というメッセージを示すために、「うん、うん、うん、うん」と何度もうなずいたり、「なるほど、なるほど」と頻繁に相づちを打ったり、手を大きく動かしたりなどの言動に、多くの人はなってしまいがちなのでは? 江角さんへの取材はオンラインで行われたために、私はリアクションを大きくしなければ伝わりにくいと考えて、いつもより派手にそのような言動をしていた。
 ところが客観的に、その映像を見ると、「なんか調子が良すぎる人だなぁ。ちゃんと聴いてくれている?」と感じる印象を、私はあたえている。一方で、動きの少ない江角さんには、落ち着きやきちんと話を聴いてくれる信頼感が見受けられるのだ。

ライターに必要不可欠なのは「傾聴力」

 江角さんが主宰するライター塾。インタビューの講義の回で、紹介している本が『プロカウンセラーが教える はじめての傾聴術』である。

『プロカウンセラーが教える はじめての傾聴術』
古宮 昇 著

 傾聴とは、相手のいうことを否定せず、耳も心も傾け、相手の話を「聴く」会話の技術を指す(『人事労務用語辞典』からの引用)。
 この本を受講生に紹介するのは、「聴く力」がなければ、記事が書けないことを痛感するからだそうだ。取材現場で聞けなかったことは書けないし、ライターが理解できなかったことも書けない、いい原稿を書くためには、とにかくいい素材を集めなければならない、そのために必要不可欠なのが「聴く力」であると江角さんは力説する。
 これまでに1500人以上のインタビューをしてきた江角さんだが、「ここをもっと突っ込んで質問すればよかった。大事なところなのに、聴けてないから書けない」と、何度も後悔をしたこともあったと言う。
 そのような経験もしながら、インタビュースキルをアップさせるために、「傾聴力」を磨いてきたそうだ。
 仕事を任され、信頼されるライターになるためには「聴く力」がなければならない。

「傾聴力」を生かして、幅広いキャリアを築く

 企業からの取材依頼の案件なども多く、引く手あまたのライターとして活躍している江角さん。大学生の頃からブログを書いていて、現在も毎日欠かさずにメルマガを発信し、エッセイも数多く書いている。エッセイを書くときも、傾聴力を生かすそうだ。
 「エッセイやブログも、自分に取材をするように書いています。自分の気持ちや思いを見つめ、傾聴することで、言葉を綴ることができるから」
 ブログで普段の仕事の様子などを書いていたところ、その熱心な読者の一人が、同志社女子大学の教授であった。現在「編集技術」の授業を受け持つようになったのは、そのブログ経由で、教授から講師就任を依頼されたからだという。その大学の講義でも、傾聴術は発揮されている。
 「私が担当している講義では、学生たちと一緒に1年かけて、1冊の本を作ります。学生たちが主体になって、本を完成させるためには、一方的に私が講義をするのではなく、彼女たちの思いや声を聴く必要があるんです」
 私が受講している「京都ライター塾アドバンスコース」講義の第1回目の冒頭での、江角さんの言葉が印象的だった。それは、「どんな自分も他人も否定しない」という講座ルール。受講生に心理的な安心を担保すること、それも傾聴の基本態度である。
 ライタースキルを磨く人が集まるオンラインサロンの主宰でも、江角さんのその姿勢は貫かれている。
 「聴く力があると、人生全般で得られる喜びが大きくなります」
 江角さんのキャリアの充実ぶりは、「聴く力」が鍵になっている。

我が子の話を聴くのは難しい

 江角さんは夫婦間でも、傾聴を心がけている。
 「長く一緒に暮らしていても、夫の話に耳を傾けていると、発見がいっぱいあるんだなって思います」
 しかし家族の話を傾聴するのは、特に難しいとも語る。
 「子どもたちには、私はちっとも話を聴いてないとよく言われます。『家族なんだから、お母さんの言っていることが、わかるでしょ!』っていう気持ちがあって。私が子どもたちに、甘えてしまっている部分が大きいような気がします」

心の痛みを癒して、もっと傾聴ができたら

 これまでに1500人以上の人にインタビューしてきた江角さんだが、今は取材したくてもできないテーマがあると言う。
 それは兄弟姉妹を亡くした人に、インタビューをすること。江角さんの妹は20歳のとき、交通事故でこの世を去った。
 「妹が亡くなったのは、1999年。時間はそれなりに経ちました。けれども未だに、私の心の痛みは、癒されていないのだなと感じます。同じような体験をされた方のお話を、客観的に聴ける自信がないのです」
 しかし江角さんは、過去のインタビュー記事で、次のようにも語っている。
 「子どもが亡くなると、お母さんにはカウンセラーがつくことがあっても、きょうだいは置き去りになることが多い。きっとそういう子たちがいっぱいいるので、インタビューして書きたい」(WEBサイト『文と編集の杜』より引用)
 また江角さんのブログには、夢をかなえられなかった妹さんの代わりに、たくさんの体験をしたり挑戦をしたりしたいという記述があった。また妹さんが亡くなってからもずっと「どこかで妹に会えないかなぁ」と心の底で思っていたという、言葉もあった。

 ここからは本当に勝手な私の想像なのだが、江角さんが誰よりも傾聴したい相手は、妹さんなのかもしれない。また江角さん自身が傾聴されたい相手も、妹さんなのかもしれない。
 江角さんは人から聴いたこと、または自分の心の声に聴いたことを、言語化してアウトプットせずにはいられないとも語った。
 江角さんがさまざまな媒体やSNSで数多く発信されているのは、妹さんにも向かって伝えたいのだというような気もする。
 「京都にはこんな素敵なお店があるよ」とか「取材でこんなに刺激的で楽しい人に会ったよ」って。
 できることならば、妹さんと一緒にそのお店を訪ねたり、出会った大好きな人を妹さんにも会わせたりしたいという気持ち。それが江角さんの傾聴力や発信力の源になっているのでは、という思いが胸に去来した。


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