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「中国で、新たな『腐敗撲滅キャンペーン』開始」は何を意味するのか?

この数日でいくつか面白いニュースが入ってきた。
関係がないように見えるものもあるが、これらを組み合わせて推論すると、とても興味深い全体像の一端が見えてくる。

中国で、習近平が新たな『汚職撲滅キャンペーン』を始めた。
この「汚職撲滅運動」は、広く知られているように、これまでも彼が政敵を倒し、権力を一人に集中する際の最大の武器になってきた。

今回のキャンペーンの新たなターゲットは、警察や司法関係者だ。
19日までに、すでに19人の警察官や司法関係の交換が取り調べを受けている。
中には、大きな権力を持つ上海の警察署長も含まれている。

前回の「汚職撲滅キャンペーン」のターゲットは「組織犯罪」だった。
結果として、3291人のマフィア(地下経済に関わる人々)と、彼らに関わり、見返りの代わりに庇護を与えてきた77000人の党関係者が摘発されたと、党幹部が発表していた。


今回はどの程度の規模になるのか?
どうやら習近平は、警察や司法関係者が力をつけ、彼自身とその取り巻きに手を出されることを警戒しているようだ。

面白いのは、この新たな腐敗撲滅キャンペーンが、共産党中央党校の蔡霞・元教授が、イギリスのガーディアン紙などいくつかの西側の新聞などに「習近平はマフィアのボス」であり、鄧小平の決めた「改革・解放」路線から逸脱しており、「習主席を解任することが党再生の第一歩だ」というインタビューを発表した翌日から始まっていることだ。

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 彼女は、「中国国民の不満は高まっているが、インドとの衝突など外交を国民の注意をそらすために利用し、また自身の権力掌握のために反米感情を煽っている。終身主席でいることを可能にするために行った憲法改正には問題があり、新型コロナウイルスを世界に広めてしまったことで世界の国々からの怒りを買っている」とガーディアンに話した。

「習政権になってから、共産党は中国の発展のために尽くす存在ではなくなり、むしろ中国の発展を阻害するものとなった。私以外にも党を離れたいと考えている人間は増えている」というのは、かなり厳しい批判だ。


この様に、中国の支配体制内部から強い批判が出始めたことには注目する必要がある。
形式的には権力を一手に掌握する習近平だが、実際には、それに反発するグループが力をつけてきたからこそ、このような発言が出てきたのではないか、と推測されるからだ。

ガーディアン紙によると、女史がインタビューを受けたのは初めてではなく、6月にもガーディアン紙からの取材を受けていたが、これまで「6月のインタビューは公表しないでくれ。自分と家族が脅迫を受けたから」と言っていた。
それが、8月18日には、「その時の分も公表して良い。今や私を縛るのは自分の良心だけだから」と態度を変えた。

この2ヶ月の間に何らかの状況が変化したのだ。
6月のインタビューでは「習主席は、中国を世界の敵にした」と習近平個人を強く非難していた。


中央党校は、共産党の高級幹部を養成する学校で、革命家の孫である蔡氏は、エリートであり、中国共産党中央党校で40年間教鞭を執ってきた体制派だった。

6月に習主席を批判する録音がネットにリークした後、共産党から除名された彼女は、現在アメリカに住んでいる。

しかし、当局は、具体的発言を特定しないまま、「蔡氏には重大な政治的問題があり、中国の名誉を傷つけた」として、蔡氏の党員資格と退職給付を取り消したと17日に発表した。

実は、中国政府はこのところ、国を批判した人物を厳しく取り締まっている。
先月は習氏と共産党を批判した清華大学の教授が警察に拘束された後、解雇された。
同じ月に国営不動産会社元会長の任志強氏が習氏を「道化師」と呼び、共産党から除名された。


今の中国の状況を整理する。

1、新たな「腐敗撲滅キャンペーン」が始まり、今や、中国の権力闘争が、政治家のみならず、学術界にも波及している。

2、インドとの武力衝突(棍棒や投石とはいえ、インド側だけで死者が二十人以上出ている)や尖閣諸島沖で中国の 公船が100日以上航行を続けるなど、このところの中国の外交が、強硬なものになっていることは以前の記事で述べた。

3、以前noteの記事にも買いたように、外交上の発言も「戦狼外交」と言われるほど、好戦的になっている。
問題は、この様な好戦的な外交に偏っている原因は何か、ということだ。

3、おりしも、トランプ政権はファーウエイへの制限措置を強め、新たに38の関連会社をエンテティ・リストに加え、アメリカの技術やアメリカの機械を使って製造している半導体などをファーウエイに売ることを禁じた。

半導体の内製化を進めている中国だが、まだ、道半ばであり、これはファーウェイにとってかなり厳しい。


4、トランプ大統領はさらに、予定されていた米中貿易交渉を一方的にキャンセル。
「中国から大量のトウモロコシの買い注文が来た。」と強気な姿勢を示している。
中国側は「あくまで延期であり、近いうちに交渉は再開される」としているが、長雨や西方から移動してきたバッタの被害などで生産が落ちて、食料事情が悪化し、輸入が必要な中国にとって、交渉が再開されても、明るい見通しは少ない。


5、日本でも大きな被害が出た長雨だが、中国でも同時期に洪水や土砂崩れなどにより多大な被害が出ており、これまでの被害額は20億ドル、約2兆円1千億円を超えた。

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しかも三峡ダムはいまだに水量が下がらず、新たに放出しなければ決壊の恐れがあると、中国国内でも警戒感が強まっている。ダムの水位上昇は今も続き、万一決壊することがあれば、4億人が被災する。

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三峡ダムのために強制移住させられた国民は百万人を超える。
決壊を避けるためにこれまでにかなりの水量の放水も行われ、三峡ダムの下流に洪水などの被害が集中しており、ダム自体の治水能力を疑問視する声も上がっている。


6、新型コロナウイルスに対しての対策も、武漢では12月のうちに人から人への感染が疑われたものの、1月19日までは、武漢当局はこの点についてはずっと否定していた。

習近平主席が、17〜18日、自らのペット・プロジェクトである「一帯一路」の調印のためミャンマーに行っていたからだ。

この「一帯一路」プロジェクトも、資金がたりず、様々な国で暗礁に乗り上げている。


7、香港での北京政府の強行姿勢に対し、アメリカなどが香港への特別な措置を撤回したことで、中国のエリートたちにとって香港を通して自由にドル資金を調達、あるいは海外へ送金する道が途絶えた。


これらのことから、中国では、一般国民、エリート層、政治局員など幅広い層に不満が高まっており、習近平が更なる『腐敗撲滅キャンペーン』を開始しなければならないほどに、危機感を持っていることが推測される。

拙著「エルドアンのトルコ」には、米中貿易戦争、だけでなく、それがハイテク、安全保障をも含む『覇権戦争』である事、その経緯も詳しく書いてあります。😉💕 まさに『新冷戦』の始まりから読んでいただけます!!😉

今世界で何が起きつつあるか、将来私たちの生活がどう変わっていくのか、知るためにも是非、読んでみてください!😉💕

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