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継承語教育におけるプロジェクト型学習の魅力とは

2020年11月13日・14日の週末にカリフォルニア大学ロサンゼルス校のNational Heritage Language Resource Center (NHLRC:全米継承語リソースセンター) の主催で「Virtual Summit on Project-Based Learning(プロジェクト型学習バーチャルサミット)」が開催されました。

アメリカの継承語教育の中心的な役割をになっているNHLRCが開催するプロジェクト型学習の会議です。しかも自宅からバーチャルで参加できるということで、大喜びで参加しました。

さて、このサミット、日本語のみならず、スペイン語やポルトガル語、中国語に韓国語、ベトナム語と、様々な言葉を教えておられる先生方、またプロジェクト型学習に興味のある先生方が集まる会議で、2日間に渡って、それぞれの先生方の面白い実践が次々と報告されました。もちろん、日本語の先生の素晴らしい発表もありました。

ひとつひとつの実践報告は本当に圧巻で、先生方の熱意に励まされるとともに、継承語教育におけるプロジェクト型学習の魅力や効果を十分に感じることができるものでした。

対象年齢も言語レベルもまちまち、また教える言語も異なっていますが、先生方の実践報告を拝聴して、やっぱりプロジェクト型学習は魅力的だと再確認したのですが、特にそう感じた点を、ご紹介したいと思います。少し長いですが、お付き合いいただけるとうれしいです。

子どもたちの言語レベルや興味等によって、様々な学習プロセスを

クラスには通常、複数の生徒がいます。そして、例えば、クラスのプロジェクトの最終成果物が、学んでいる言語で自分の好きなレストランのレビューを書くことだとします。レビューを書くためには、他のレビューを参考にしたり、どのような情報が必要なのかを調べてみたり、信頼できる情報とは何かを考えてみたりといろいろな学びや活動のステップがあると思います。このステップを、グループの全員が同じようにたどらなくてもよいということです。

言語レベルの高い生徒は、学習言語でリサーチもできますし、レビューも最初から学習言語で考え組み立てていくことができるかもしれません。まだ学習言語をうまく扱えない生徒は、リサーチは自分の母語で行い、レビューも母語で考え、その後、辞書等を参考にしながら学習言語でレビューを用意することもあるでしょう。それぞれが、それぞれのレベルにあった方法で、最終目標を目指して進んでいく、このようなことがプロジェクト型学習では可能になります。

ただ、それはそれぞれが独立した活動を行うということではなく、ゴールに向かう過程でクラスメートの助言を受け、また助言をし、一緒に考え改良を重ねていくことが、プロジェクト型学習では可能です。このような、コミュニケーションを通して、共に学ぶ機会が生まれるのではないでしょうか。

将来に必要かもしれない技能の育成よりも、現在の課題の解決

今回のサミットで紹介された実践報告でしっかりと設定されていたのが、「現在の解決しないといけない・解決したい課題」です。これは、将来、出会うかもしれない(出会わないかもしれない)設定や場面で使うかもしれない表現を学ぶのではなく、今、直面している課題への取り組みに焦点をおくということになります。

日本国外で生活をしていて、日本に旅行にいく予定もない状況で日本の銀行で口座開設をする方法を学習することに、どのくらいの生徒が必要性を感じることができるでしょうか。それならば、自分が現在、所属するコミュニティーの活動に貢献するためには何が必要かを調べ、コミュニティの人々との交流の中で学び、必要なものを提供できるようなプロジェクトを行う方が、やりがいも大きく考えること、学ぶことも多いのではということでしょうか。

実際の生活、社会と結びついた活動を

これは二番目の話とも深く結びついているのですが、プロジェクト型学習の醍醐味は、実施するプロジェクトが生徒の実際の生活や生徒を取り巻く環境としっかりと結びついていることにあります。先程のレストランレビューの例を再登場させるならば、実際に生徒が好きなレストランを多くの人に知ってもらうために、実際のオンラインレビューページに投稿するという活動に、虚構の世界はありません。

これは今回の会議において、プロジェクト型学習での「real audience(実際の聴衆)」の大切さについてよく話されていたことからも感じることができます。最終成果物(レストランレビュー)を誰が見るのか、これに興味を持つ人々がいるのか、また誰かの役に立つのかという視点はプロジェクト型学習では大切にするべきことだと感じています。

まだまだ、感じたことはいろいろとあるのですが、長くなってしまったので今日はここまでにしたいと思います。最後に、今回のバーチャルサミットで感じたことは、やっぱり「プロジェクト型学習」は魅力的だということです。これからもプロジェクト型学習の様々な可能性を探っていきたいと思います。


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