物語の中の嵐
またしても台風がやってきます。九州に高齢の親戚が住んでいるので心配しています。ひとりは念のため、菩提寺へ避難したそうです。
当番の住む北関東へ台風10号が接近するのは、早くて月曜日くらいの模様です。雨は降っているものの、電車が止まるほどの強さでもないので本日の当番は普通に出勤です。月末の金曜日ですからねえ、仕事はたくさんありますねえ。当番は帳簿つくるお仕事なので。
こんな雨が降る日には、脳内の「殿堂入り児童書棚」からありったけの「大雨や大嵐の場面がある物語」を引き出してきて、その描写を思い浮かべながら暮らします。もし、仕事へも行かなくていいような状況だったら寝室のリアル書棚からリアル殿堂入り児童書を引き出してきて、外で唸る風雨の音に耳をすませながら嵐の描写を堪能します。天然効果音付き読書です。ちょっと不謹慎ではあるかもしれない。でも臨場感抜群です。
児童書の中から選ぶのは、長年読みなれて先の展開まできっちりわかっているからです。なんなら目の前に本がなくても思い出せるくらい、当番の心が覚えているからです。そしてこども向けに書かれた物語は、嵐や暴風雨に遭っても必ず助かるからです。
【当番の好きな「嵐や雨の場面がある児童書」リスト】トーベ・ヤンソン『ムーミン谷の夏まつり』
嵐ではないけれど、火山が噴火してフィヨルドの海水が逆流し(津波ですね)、ムーミン谷が水没するところから物語が始まる。実はある種の災害小説なんですよね『ムーミン谷の夏まつり』。ムーミン屋敷の1階が完全に浸水し、2階の床に穴をあけて水没した台所へ潜って食糧を回収してくる描写にワクワクした仔当番。おとな目線だと笑いごとではないですけれどね。ムーミン屋敷を一時的に退去し、ちょうど流されてきた劇場へ避難する一家。物語の最後、やっと谷へ戻れるようになったものの、まだ腰の深さまである水を一家で歩いて屋敷へ向かう挿絵が印象的。
トーベ・ヤンソン『ムーミンパパの思い出』
ムーミンパパが語る少年時代の回顧録。孤児院を脱走した若き日のムーミンパパは、発明家フレドリクソン・その甥ロッドユール・風来坊のヨクサルと「海のオーケストラ号」に乗り込んで海へ出る。そこで出会う、初めての大嵐。船の設計者兼船長のフレドリクソンに嵐の経験はあるのかと問うと「『大嵐』という絵本を読んだことがある」と返ってくる。命からがらの航海と、嵐が過ぎ去ったあとの陽光の描写が印象的。
トーベ・ヤンソン『ムーミンパパ海へいく』
中年の危機を迎え自分が家族から尊敬されていないのではないかと思いはじめたムーミンパパ。突然一家を連れて灯台がひとつあるきりの絶海の孤島へ移住を決める。そこでなら男らしく父親らしく一家の中で面目をほどこすことができるぞと意気込んだパパだったが、自然はあまりにも厳しかった。全編通して悪天候に翻弄されるパパが見られる。
トーベ・ヤンソン『ムーミン谷の仲間たち』
雨と嵐の描写が豊作な短編集。『ニョロニョロのひみつ』では根無し草の電気トロール・ニョロニョロの放浪生活に憧れてムーミンパパが家出をしてしまう(よくよく家出する男である、このトロール)。ニョロニョロの集まる島へ上陸し、激しい雷雨に打たれながら帯電して歓喜するニョロニョロを目撃したムーミンパパは衝撃の事実に直面する。『この世のおわりにおびえるフィリフヨンカ』はひとり「この世のおわり、大災害、カタストロフ」におびえているフィリフヨンカが登場する。友達に不安を打ち明けても理解してもらえない。しかしとうとう本物の大災害が彼女のもとへやってくる。『しずかなのが好きなヘムレンさん』では陽キャのヘムル一族の中でただひとり物静かな陰キャに生まれたヘムレン青年が登場する。彼は洪水で閉業した遊園地から廃材を集め、騒がしくない新しい遊園地「沈黙の園」を築きはじめる。
トーベ・ヤンソン『ムーミン谷の十一月』
怒涛のムーミン推しで相済まぬ、トーベ・ヤンソン嵐や雷雨の描写が上手いんだわ。空想癖のある内気な少年ホムサ・トフトが現実の雷雨に合わせてひとり「この雷雨を起こしているのは自分なのだ、自分はこの雷雨で(そばにいてほしいのに留守にしている)ムーミンママを叱ってやったんだ」と妄想する場面あり。リアル雷雨の日に読むと臨場感たっぷり。
ミヒャエル・エンデ『モモ』
円形劇場に集まったこどもたちが、円形劇場を巨大な研究船「アルゴー号」へ見立てて嵐の海へ乗りだすごっこ遊びをはじめる。ごっこ遊びの中でどんどん臨場感を増していく嵐の描写。巨大な竜巻を鎮めた意外な解決策と、遊びが終わって初めて気付いた「本物の暴風雨」のエピソード。
ミヒャエル・エンデ『はてしない物語』
嵐ではないが、実は雨の日の物語。古書店のガラス戸に雨が当たっている描写から始まる。主人公バスチアンが『はてしない物語』を読み進めるあいだもずっと、外では雨が降っている。作中、東西南北の大風がアトレーユの乗る竜ごと海へ叩き落とす描写も印象的。