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新しいカニを飼う話② 蒲田駅でぼんやり人の流れを見ていたら

ある日、蒲田駅にいた。
仕事関係の方が「親戚からたくさんサクランボをもらったから、分けて上げる」というので、私は駅改札の前でワクワクしながら待っていた。約束よりもかなり早く着いてしまったので、ぼんやりと人の流れを見ていた。

蒲田駅はたくさんの人が行き来する。それも多様だ。
おじいさん、おばあさん、おじさん、おばさん、おねえさん、おにいさん、子どもたち、赤ちゃん。
車椅子、ベビーカー、白杖を持った人、支えられて歩く人、知的障害があると思しき人、泣いている子ども、スキップする子ども。
私からは見えなかったけれど、補聴器をしていた人もいるはず。
最初に老若男女別に書いてみたけれど、もしかしたら、MTFの人やFTMの人もいたかもしれない。

見た目ではわからないいろいろな思いがそれぞれにあるはずだ、とも思った。
今夜の献立を考えている人、模試の結果が悪くて落ち込んでいる人、今日プロポーズしようとしている人、失恋したばかりでつらい人、介護で疲れ果てている人、妊娠が分かったばかりの人、
何か病気を抱えている人、
・・・乳がんの人。

このときはスマホ画面を見なかったので、ひたすら目の前を通る人を眺めていた。いろいろな人がいるんだなあ、一人ひとりにドラマがあるんだなぁ…と思ったら、じわっと涙がにじんできた。

私はあの日、生検の結果を待っていて、「どうせただの乳腺症だろう」とたかをくくりつつ、心の片隅で「もし、乳がんだったらどうなるんだろうなぁ」とぼんやり考えているだけの人だった。

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