親愛なるYへ


すごく綺麗に学ランを着ていて、広い肩幅に逆三角形の背中、細い腰と作り物みたいな腕の形。ギャハギャハ女の子見て意味もなく笑う一軍ぽい男子の中にいながら、あんまりそういうのに乗らずぽへっとしてる様子がとても良かったよ。君のそのスタンスが20過ぎた今でもあることを、とても嬉しく思う。

頭がいいのに頭の回転はあんまり良くなくて、よく私が調子に乗って君のことを話してしまってなんだか不貞腐れていたね。毎回気づいてあちゃ~申し訳なかったな、ってあとから後悔するんだけど、君は案外嫌じゃなかったのかしら。かと思うとぼそっと核心をついたようなことを言ってみたり。中学の時隣の席になって言われた「集中力切れるの早いんだね」って言葉、今でもすごい覚えてる。

もう気持ちが離れて、お揃いでつけてたキーホルダーを黙って私が外した後、気づいて自分も外したよね。帰りの会の前、背中がすごく寂しそうで、ごめん。

家庭環境が似てて、幸薄そうで、真顔が綺麗な野生の獣のような、君に自分の性欲でも愛情でもない何かがずっと惹かれている。中学生の時から10年経った今でも。

久しぶりに連絡した時、2年前、恋人と別れたし留年してボロボロで、でもちゃんと「何やってんだ」って叱ってくれて嬉しかった。正直夜会うし、そのままホテルに行ってもいいかなと思ってた。けれど恋愛経験が少ないって言ってたのに、1軒目払う代わりに二軒目払ってと言ってくれたから、すごいスマートだ!って感動した。ワンチャン、とか1ミリもなかった。
初春、生暖かい風がびゅうびゅう吹き、バイバイと見つめあった瞳がやっぱり透明で、しなやかな獣だった。神聖なもののようだった。


すっぴんの顔を知られている、気を使わなくても良くて、会うだけでなんだか嬉しい気持ちは本当に尊いものだと、無くなってから知った。

わたしは、もうそこで「友達」になったと思ったし、もし、タイミングがあって……その時まだ地元にいたとしたら、結婚なんて未来もあるのかなぁなんて考えていたけれど。

だからこそ、君は悪いやつじゃないからこそ、君を好いてくれている女の子との関係は、はっきりさせてあげるべきだと思った。その女の子の辛い気持ちがよく分かった、逆にヤらないのが失礼なレベルだと思った。彼女は望んでいるし、君は頭がいいからお似合いだよ、付き合うの。結婚するにしたってね。

「彼女に本気になってしまって、香織を好きでいられなくなるのが怖いんだ。もし香織が落ち着いたらでいいから、結婚を考えてくれないか」

すごく、すごく悲しくなった。

だってまだ大学卒業まで最低3年もある、恋愛的に相性がいいかなんてわかんないよ、お互いの親とか将来とか今決められる?「香織くらいさっぱりしてるのがちょうどいいんだよな〜」なんてそりゃあ男友達の女の愚痴聞く時なんてサバサバするさ、本当は私めっちゃ重いんだよ、本当の私を知ろうとしてよ、

彼に対しての怒りと、そう彼に言わせてしまった今までの自分の行いを反省した。
彼の好意を弄んだ(つもりは無いが、結果的にそうなってしまった)罰だと思った。

結婚って、人から言われると重い言葉。

夏休み「彼女と半同棲中です」とLINEが来た。「二度とLINEしてこないでください」と送った。それが私にできる全てだと思った。彼の人生に関わらないこと。最近確認したら、ブロックされていた。これでよかったんだ。

彼は地元に残らないと言っていたから、本当に二度と会わないだろう。それこそ私が中学の名簿を引っ張り出して死に物狂いで住所を探し実家へ突撃する以外には。

もう本当にお別れだね。
記憶をまっさらにして出会い直したい。
きっといいパパになるでしょう、素敵な家庭を築いている様子が目に浮かびます。
Y、どうかお元気で。
君が幸せに暮らしていたら嬉しい。

10年前と5年前と2年前の私と、今の私より。


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