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武蔵野市住民投票条例案は違憲濃厚なのかー衆院法制局・産経記事を受けて

産経新聞が、武蔵野市住民投票条例に関して、住民投票は『選挙権に匹敵も』衆院法制局が見解 東京・武蔵野市の条例案という記事を出した。今回は、その記事を検証していく。

結論からいうと、少なくともこの見出しが、武蔵野市住民投票条例が「選挙権に匹敵も」と読めるのは、明らかなミスリードであるし、内容もかなり杜撰である。

※引用(グレーの部分)の明記のない部分は、上記記事からの引用である。

「違憲の疑いが濃厚」のウソ

住民の意思を投票によって地方公共団体の政策に反映させる「住民投票」の投票権について、衆院法制局が「地方公共団体の選挙の選挙権に匹敵するものとなり得る」と位置付けていることが2日、産経新聞の取材で分かった。住民投票をめぐっては、東京都武蔵野市が日本人と外国人を区別せずに投票権を認める条例案を市議会に提案しており、違憲の疑いが濃厚な外国人参政権の代替制度になりかねないとの声が上がっている。法制局の見解はそれを裏付けた格好だ。

まず、「違憲の疑いが濃厚な外国人参政権の代替制度になりかねないとの声が上がっている」とあるが、外国人参政権について、現在の学説上、国政禁止・地方許容という組み合わせが最有力とされ、最高裁平成7年2月28日第三小法廷判決により、判例も同様とされる(憲法判例百選第7版9頁)。
つまり、国政であれば、外国人参政権は「違憲の疑いが濃厚」といえるが、地方参政権については、そもそも参政権そのものが「違憲の疑いが濃厚」とはいえないのである。

したがって、仮に「外国人参政権の代替制度になりかねない」としても、住民投票条例一般について「違憲の疑いが濃厚」とはならない。

同市の条例案は、市内に3カ月以上住んでいる18歳以上の日本人と定住外国人に投票権を認めており、外国人は永住者だけでなく、留学生や技能実習生らも含まれる。市長や議会には投票結果の尊重義務が課されるため、国政に関わる問題が住民投票に付された場合、外国人参政権と同じ機能を持つのではないかとの指摘が、保守系の国会議員や市民らから出ている。

外国人が含まれるといっても、ここにあるように「市内に3カ月以上住んでいる」ことが要件であり、日本人と外国人を区別しないだけである。また、尊重義務があるのは住民投票として当たり前であるから、何ら問題ない。その上で、諮問型の武蔵野市住民投票条例案は、いわゆる「外国人参政権と同じ機能を持つ」というのはやや飛躍している。

法制局の「見解」なのか

法制局は住民投票について「何を対象にするのか、結果の拘束力がどの程度あるのかなど、前提となる要素が整えば選挙権に匹敵し得るだろう」とした上で、「外国人にどこまで投票権を認めるかは十分な議論が必要だと考えられる」との見解を示した。
衆院法制局は議員活動をサポートする組織で、議員立法の審査のほか、憲法や法律解釈などについて議員の照会に対応している。

そもそも、ここにあるように、法制局は「議員活動をサポートする組織で、議員立法の審査のほか、憲法や法律解釈などについて議員の照会に対応」するものであり、議員が照会しなければ、対応することはない。つまり、例えば新聞社が聞いたところで対応してもらえるものではない。したがって、これまでの言動からおそらく長島昭久議員の「照会」に対応した結果として、このような「回答」をしたのだろう。それをどういうわけか、産経新聞が入手した、ということになろう。

したがって、これが衆院法制局の「公式」の見解であるのかは、甚だ疑問である。

が、これを法制局の見解だとして、武蔵野市住民投票条例が、「選挙権に匹敵」するのか考える。

住民投票条例は「選挙権に匹敵」?

まず、法制局は、一般論として、「何を対象にするのか、結果の拘束力がどの程度あるのかなど、前提となる要素が整えば選挙権に匹敵し得るだろう」としている。

これを、武蔵野市住民投票条例(案)にあてはめて考える。特に「結果の拘束力」についてであるが、これは武蔵野市住民投票条例では生じない
武蔵野市住民投票条例は「諮問型」であり、住民投票の結果を「尊重」はすれど、その結果に法的に拘束されることはないのである。したがって、「選挙権に匹敵」するための「前提となる要素が整」わないのである。

よって、「法制局の見解」によっても、武蔵野市住民投票条例に基づく住民投票権は「選挙権に匹敵」しないのである。

同市の条例制定に反対している自民党の長島昭久衆院議員は「住民投票の結果は行政に対して事実上の拘束力が働き、広義の参政権にあたる。外国人に要件を付けず、『無条件』に投票権を認めるのは乱暴ではないか」と指摘している。

最後に、長島昭久衆院議員のコメントがあるが、「事実上の拘束力」とあえて強調することにより、「拘束力」があるかのようにいうが、実際に「法的拘束力」はなく、「参政権」とは異なる性質であることは明らかである。また、「外国人に要件を付けず、『無条件』に投票権を認める」というのは、日本人と同様の要件はあることから(日本人より重い要件を設けないだけで)ウソである。

これらから、武蔵野市住民投票条例が「選挙権に匹敵」しているわけではなく、この産経の記事の見出しがミスリーディングであることがわかる。また、今回の記事は、衆院法制局が条例について「見解」を出すなど不可解な点が多いが、それはこれから明らかになるであろう。

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