とある焼肉屋の老夫婦の話

とある平日の夜、健康診断が終わったばかりの僕はお腹がとても空いていた。
胃カメラが診察に含まれていたため、前日の夜21時以降何も食べていけなかったのだ。
朝、昼ご飯を抜き、健康診断が終わった時は夕方の16時。気が狂いそうだった。駅前から漂ってくるマクドナルドの匂いだけで米が食えた。

そんな今日は絶食を頑張った自分へのご褒美に、家の近所の老夫婦がやっている焼肉屋に行くことにした。
とても美味しくて安いのに、人はそんなにいない昔ながらの焼肉屋さん。そして何より老夫婦の雰囲気がとてもよい。
僕はそういうお店が大好きだ。

開店時間である18時と同時に店に行った。
メニューの手書き感がいい感じ。
お婆ちゃん家に来たような感じがして落ち着く。いつも通りハラミ、ミノ、ご飯、コーラを注文。
客が僕ともう1組しかいないため、すぐに肉が来た。
ハラミから焼いて食べる。美味すぎる。肉がこんなに美味しく感じられるなら胃カメラのための絶食も悪くない。

肉を食べながらふとお婆ちゃんが何してるのか見ると、畳に座ってのんびりぼーっとしていた。お婆ちゃんの前ではお爺ちゃんが肉を切ったり、料理をして働いている。
お婆ちゃん、かわいいなぁって思わざるをえなかった。以前この店に来たときもお婆ちゃんは仕事が無いときはテレビを見ていた。そんな人間らしさ全開のお婆ちゃんが僕は大好きだ。
お婆ちゃんがあまりにリラックスしているので、本当にお婆ちゃん家でご飯を食べさせてもらっているような感覚になる。
僕はこれを見るのが好きでこの店のファンになった。

お爺ちゃんはずっとせかせか働いてる一方で、仕事がないときはのんびりしているお婆ちゃん。お爺ちゃんは文句1つ言わずに当たり前のようにしている。むしろ幸せそうだ。

僕はこれにとても驚いた。
自分がこれくらいやってるんだから、奥さんにもこれくらいやってほしい、と僕なら思ってしまうだろう。でもお爺ちゃんはそんな態度は微塵もない。とても幸せそうなのだ。

ふと目の前にいる老夫婦と最近の自分を比較して、自分の愚かさ、考えの若さに気付かされる。

自分が愛してる人が幸せでいてくれること、それがお爺ちゃんにとって1番幸せなことなんじゃないだろうか。お爺ちゃんがお婆ちゃんを今までたくさん愛してきたからこそ、お婆ちゃんは幸せそうであり、とてもかわいい。
また、お婆ちゃんも「焼肉屋をやりたい!」と言うお爺ちゃんを暖かく支えてきたのではなかろうか。
お互い愛で満ち溢れている夫婦を目の前にして、僕は自分の考えが間違っていたことを痛感した。

一緒に人生を歩んでいってくれると決断してくれたパートナーに改めてありがとうを伝えたくなった。
そう気づかせてくれた焼肉屋の老夫婦に本当に感謝をしている。

なんでもGive and Takeで考えてしまいがちになるのが人間の癖だが、今一度その考え方を捨ててみると身近な幸せに気付くきっかけになるのではないだろうか。


※焼肉屋は東京の武蔵小山にある「三男坊」というお店です。とても美味しいので是非行ってみてください。

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