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父の起き上がった最後の姿 #2

兄にメールをしたが返答はない。
父の入院の手続きをして、父はひとまず救命救急センターに入った。
薬で眠っている。看護師さんがつきっきりで見てくれている。
明日の朝に精密検査をするとのこと。
ちゃんと目を覚ますのか心配だったが、明日も仕事があるため、帰宅することにした。

次の日の朝、病院に行って先生の話を聞いた。
先生は脳外科の先生だった。
脳のCTやMRIの写真を見ながら説明を聞いた。

父は、脳梗塞と脳出血を一緒に起こしているとのこと。
通常、脳梗塞だと血をサラサラにする薬を投与するみたいだが、一緒に脳梗塞も起こしているため様子を見るしかないとのこと。
父はこれで脳梗塞は2回目だ。
私もどんな治療が出来るのかなど分からないため、先生の判断に従うしかない。
病名を聞いてすぐに、父の最初の奥さんとの子どもである東京に住んでいる姉に連絡を入れた。姉は当時中学生の息子がいて、離婚をしたばかりだった。
すぐには行けないからまた進捗を教えてくれとのこと。
次に妹2人に連絡をした。末の妹は結婚していて、幼稚園と2歳の子どもがいる。
つい先日、父とずっと離れて暮らしていた末の妹と、妹の夫、娘2人(父にとっては孫になる2人)に会わせてあげたばかりだった。
そんな状況だったため、無理に病院には来なくて良いと伝えた。

私自身は、仕事は早々に切り上げて、目が覚めないかと父の顔を一日中ずっと見ていた。
夕方になると、すぐ下の妹が仕事終わりに来てくれた。
学生の頃は家出をしたりと家族に色々と迷惑をかけた妹だが、その時は結婚を控えていた。父にはまだ知らせてなかった。

1時間くらいすると妹はまた来ると行って帰っていった。
その後私も帰ろうかと思っていたが、薬が切れたのか父が目を覚ました。
先生もすっ飛んで来てくれて、先生も私も父に話しかけまくった。

父はベッドの上で起き上がって、ぼーっとしている。
ベットから降りようとしているが身体が上手く使えないみたいだった。
何か喋っているようだが、声は出ていない。
まだ目線はしっかりしていて、私に何か訴えているようだった。
繰り返し、ため息をつくような、情けないと呟いているような様子。

「久保さーん!わかりますかー??お名前を教えてください!」

「・・・・・・・。」

何か答えようとしているのだが、言葉が出てこないみたいだ。
そうすると、先生はそこにあった父の携帯電話を顔の前に差し出して、

「久保さん!これは何かわかりますか?!」

首を縦に頷いた。

「では、これをどうやって使うのかわかりますか?使ってみてください」

そう先生が言うと、父は固まり、10秒後くらいに首を横に振った。

え?
お父さん分からないの?
どうゆうこと??

これから父はどうなるのか不安に思ったが、この時はまだ退院して、
また日常生活を送れるようになると完全に思っていた。

先生からは
「もう1日脳出血の様子をみましょう。落ち着いていたら血をサラサラにする薬を投与していきましょう」
と説明を受けていた。

私は、父が様子はおかしかったが、一旦起き上がったため少し安心したため、

「また明日も来るね」

と伝えると父は頷いてくれた。

その時が
父の最後の起き上がった姿になったのだった。

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