ひと夏の人間離れ【毎週ショートショートnote】
美羽は空を飛べる。
晴れた日の夕暮れは、うっとりするような不思議な色合いで好き。
悠斗は身長五センチになれる。
庭でカエルの背に乗って飛び跳ねたり、ブルーベリーの食べ放題を楽しむ。
莉子は透明人間になれる。
同級生が歩いていると、首筋をちょっと爪でつついてみる。振り向いても誰もいない。笑っちゃう。
人間離れしたこの能力、使用期限は8月31日までだ。
夏休みの初日、公民館に涼みに行ったらチケットを配っていたが、それが見える人と見えない人がいたみたいだ。
「めいっぱい人間離れして、楽しく夏休みを過ごせよ」
配っていたおじさんが手を振った。
だから9月になると普通の人間に戻る。
美羽は病気の母親の代わりに、小さい弟の世話や家事をする。
悠斗は優秀な兄と比べられて罵倒され、庭のブルーベリーも食べさせてもらえない。
莉子は学校に居場所がない。
でも、ひと夏の人間離れの思い出があれば、しばらくがんばれるかもしれない。
(410字)
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お題「ひと夏の人間離れ」
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廃校になった小学校だそうです。
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