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声が出せない、再び


 また、声が出せなくなった。

 声が出せなくなったのでこうやって文字を書いている。声が出せなくなって今日で5日目。去年はほぼまる一ヶ月声が出せないままだった。今年は一週間くらいで収めたい。なぜなら声が出せないことは、口から生まれた私にとって一大事だから。しゃべることで自我を保っている人間が声を失うと一気にガラガラ崩れ落ちる。実際崩れ落ちている。さらに悪いことに声が出せないのは去年に引き続き1年ぶり2回目(何も嬉しくない新記録更新)。人間の脳とはよく出来たもので、過去と同じような境遇に陥ると当時の記憶が蘇ってくる。特に嫌な記憶ばかり。そりゃ熱もあってひたすら部屋でひとり横になっているのだから悪いことばかり思い出されて当然っちゃ当然か。こうやってトラウマというのが発生すると身をもって知る。声が出せないと叫んで発散することもできないので書いて書いて発散しようと思う。

 以下、去年嫌だったこと

その一、まぁすぐよくなるだろうと思っていたらみるみるうちに悪化して、結果ひと月も喋れなかったこと。

その二、アホみたいにたくさん薬を飲んだ結果、胃腸にも響いて死ぬほどお腹が痛かったこと。また、声が出るようになった後もステロイドの離脱症状によるアホみたいな倦怠感で体が全然動かなくなったこと。

その三、当時の恋人に「声が出せずつらい」と連絡したものの「気晴らしに美味しいものでも、と言いたいところだけど無言でメシってのもね」と、看病はおろか顔を出すこともなかったこと。(断っておくが感染症の類ではなかった)喋り相手にならない自分はまるで価値がない、と一蹴されたように感じたこと。

その四、声が出ないことで主張が相手に伝わらず、合意のないまま大小様々な物事が進められたこと。大半は仕方のないことなので水に流した。あまりに個人的な事情のため詳細は語らないが、意思確認が重要な場面で私の意思は透明化され、そのために深く傷付いたこと。

その五、声が出せない間、読み上げアプリや筆談で意思疎通をしていたが、晴れて声が出るようになった後「もうちょっとそのままでも面白かったのに」という軽口を叩かれたこと。ただでさえやりづらく煩わしい意思疎通を、なんとか楽しいコミュニケーションに変えようという気丈なふるまいが、結果裏目に出たこと。

 一旦ここまでにしておく。
 とにかく孤独だった。そして、孤独を伝える術がなかった。



 出せなくなったものは出せないので、出来るだけ生産的な方向に思考を向ける。トラウマをトラウマにしないためにやれることをやる。

 以下、今できること。

その一、とにかく早く声が出せるようになるよう最善を尽くすこと。具体的には、正しく薬を服用する、ひたすらに声を出さない、すべての意思疎通はテキストなどで行う(小声でも声帯の筋肉を動かすことになりよくない)、固いものや辛いもの、タバコやアルコールなどの刺激物の類を一切控えること。

その二、薬の副作用が出ないよう細心の注意を払うこと。ステロイドの離脱症状が起きないよう、ぷっつり服用をやめるのではなく、徐々に容量を減らしフェードアウトするのがよい。

その三、声が出せないものの痛みや苦しみは、結局のところ当人にしか分からないので、他者からの労りや慰めを過度に期待しないこと。「身近な人が声を出せなくなったときにかけてあげるべき言葉」なんてものは義務教育では習ってないのだから、当然である。

その四、自分の価値などというものについて考え込まないこと。考え込むなら、いっそ寝込むか、眠れないなら手を動かせ!何かを作ったり書いたりしてそれに打ち込むのだ!(まさに今書き散らしているように)

その五、その五、、、やっっってられっっっかよ!!!!
去年とて!!!!それくらいのことは徹底した上で、1ヶ月、1ヶ月ものあいだ声が出なかったんだ!!!!信じられるか????な〜にがうれしくて声が出せないことに慣れちゃって冷静に対策なんか立ててんだ!!!!一大事だろうがよ!!!!ボケカスタコナス!!!!!!ご自愛なんてクソ喰らえ!!!!

と、いうような感情はどうしたって収まらないので、その時は勢いに任せて暴れ散らかし倒すこと。


えー、以上で本日の終礼を終わります。
起立!気をつけ!礼!就寝!

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