コワーキングはただの作業場ではない〜2005年頃に提唱された「コワーキングの5大価値」を解説付きで紹介する
※この記事は、2022年2月19日に公開されたものの再録です。
コワーキングはただの「作業場」ではありません。そう思っている人もいますが残念な誤解です。誤解しているぶん、損しています。ひとりで作業するだけではなくて、ま、そういう時間も確かにあるけれども、それよりも誰かとつながることでいろんなことができる、そういうプラットフォームです。
そのコワーキングには提供すべき5つの価値があります。
そもそもコワーキングとはなにか?
コワーキングとは、
を、言います。
その昔から、同業者が場所を共用して仕事をするということは世界各地でありましたが、我々がいま「Coworking」と認識しているワークスタイルならびにワークスペースは、2005年8月9日に、アメリカのサンフランシスコでBrad Neuberg氏が仲間に呼びかけて、Spiral Museという建物の中ではじめたのが最初です。
ちなみにその8月9日はその後、「International Coworking Day」となっており、世界中のコワーキングが毎年この日とその前後にイベントを開催しています。
彼が最初にコワーキングを始めるにあたって参加を呼びかけたブログがこれですが、「Coworking」と書いています。
Coworking - Community for Developers Who Work From Home
「Coworking」という表記もBrad Neuberg氏が「Co-working」と区別するために作った新語でした。ハイフンのある「Co-worker」は「同じ会社の同僚」という意味ですが、それとは違う、それぞれが別々の仕事をしているけれども、「仕事環境を共用(共有ではない)してコミュニティに参加する人」を表すためにハイフンのない「Coworker」という概念を作りました。だから(ハイフンのない)「Coworking」が正しい表記です。
「Coworking」という言葉は、3年ほど前に正式に英単語として認められて海外の英語の辞書に載るようになりました。それだけ社会に必要なインフラとして広く認知されてきたことが伺えます。
コワーキングの5大価値
その2005年あたりに、アメリカの初期のコワーキング運営者たちによって策定された「コワーキングの提供する価値」が、以下の5つです。
順にぼくの解釈を含めて説明します。
Accessibility(つながり)
元々はそのコワーキングスペースへの交通のアクセスの良さを意味していましたが、ぼくはむしろ「必要な時に必要な人とつながることのできる環境」と理解しています。
コワーキングで仕事をしているとさまざまなワーカーと知り合いになります。そして、時には「このテーマに詳しい人はいないかな」とか「誰かと一緒に勉強会できないかな」とか、あるいは「この仕事を手伝ってくれる人はいないかな」というニーズが発生します。
そんなとき、コワーキングの中でその人につながることがよくあります。場合によっては、コワーキングでつながった人を経由してそのコワーキングの外にいる人にもつながります。この「人つながり」こそがコワーキングに最も欠かせない価値です。
なお、こうした「人つながり」の輪を広げるためにも、固定的なメンバーだけのコワーキングではなく、「ドロップイン(一時利用)」によって多様なワーカーの利用を促進し、常にコミュニティに違う空気を入れることが望ましいと考えています。
Openness (シェア)
知り合ったコワーキングユーザーが、お互いのリソースを提供し合うシェアの場としてコワーキングがあります。
例えば、ソフトウェアやウェブサービスの使い方がわからなければ隣にいるワーカーに尋ねて教えてもらう、ということはコワーキングではよくあります(なければ、それはコワーキングではない、と思ってます)。自分の持っている情報や知見を提供し合う。知っている人が知らない人に教えてあげる。そうしてお互いに教え合う関係になる。
それは知識に限らず、仕事に必要な技術習得の場合でも同じです。まだ身につけていない人に熟練の人が教えてあげる。ちょっとしたことでも、その人にとっては大きな一歩になる。シェアしていくことで、できる人が増えていく。これを普通のこととしてコワーキングで行われるのが、ローカルコミュニティとして理想の展開です。
またそれは、仕事に限りません。ローカルコワーキングには、ありとあらゆる人たちが訪れ、それぞれの課題や目的が持ち込まれ、そこに人が交差することで新しい価値を生むプラットフォームとしての役割もあります。
そもそも、コワーキングスペース自体が「環境を共に使う」=シェアです。ここで重要なのは「共有」ではありません。誰もそこを所有していません。けれども、皆でそこを共同で利用する、つまり「共用」=シェアです。
Collaboration (コラボ)
お互いのリソースを提供し合うことで、その「人となり」を知り、その人の技量なり知識なりの質と量が判ってくると、今度は一緒に仕事をするコラボの関係に発展することはよくあります。
コワーキングスペースを利用するコワーカーは、フリーランサーや小規模事業者(ぼくはこれを「ひとりカンパニー」と呼んでいます)が多いですが、必ずしもひとりで完結する仕事をやっているわけではありません。むしろ、誰かとコラボ(もしくは、チーム)を組むことで仕事を進めることのほうが普通です。
コワーキングには、デスクで仕事をしている間にも、勉強会やワークショップの中でも、ときにはパーティや飲み会の場でも、そのコラボを組む相手を見つける機会がたくさんあります。
そのコラボを組める人の候補をたくさん持っておくことが、自分の仕事の内容によって最も相応しいコワーカーをマッチングさせやすくなるのは当然のことです。コワーキングはその候補と知り合い、一緒に仕事をするための格好のインフラです。
ぼくもひとりカンパニーですが、常にこのコラボの可能性を意識しています。それが自分の受けた仕事を満足行く成果物にするために必要であり、かつまた将来、舞い込むであろう案件に対処する武器になるからです。そしてこれは、今後利用が増えるであろうと予測されている、企業に勤める人たちにとっても同じです。
言うまでもなくコラボもまた「共創」であり、コワーキングです。
なお、コワーキングスペース同士でコラボを組むことも、言うまでもなくローカルコワーキングの可能性を広げる方法として有効です。
Community (コミュニティ)
そうして、コワーキングスペースでいくつものコラボが生まれ、各自が仕事をこなしていくようになると、そのスペースが「ワーキングコミュニティ」として機能し始めます。コワーキングスペースを舞台にしていくつもの仕事が回りだすフェーズです。
ワークとライフは表裏一体です。ワークが充実することで、人々のライフも豊かになります。もちろん、ワークの解釈、定義は人ぞれぞれです。各自の価値観に沿って仕事をし、生きていくことに異論はありません。むしろ、多様性を受け入れ育む環境としてのコワーキングでは、何者も枠にはめないことが肝要と考えています。
ただ、各自のワークが動き出すことで、そのコミュニティがローカルを活性化するインフラとして不可欠な存在となり、ローカル経済を駆動するエンジンの役割を担うようになります。このことは、コワーキング運営者も利用者も、意識しておく必要があります。
中には、特定のコワーカーとのコラボを経て会社を設立するというケースもあります。それもまた、ローカル経済に貢献することになります。
そして、インターネットが常態化した現代では、コミュニティの参加者は必ずしも地理的要件に制限されるものでは、もはやなくなっています。どこにいようと、どこから来ようと、そのコワーキングの目指す方向に共感するのであれば、そのコミュニティの一員であることは可能です。
また、コロナ禍でリアルなコワーキングの利用が不可能になった場合でも、オンラインでのコミュニティ参加は十分可能です。実は、オンラインとオフライン双方でのコワーキング運営が今後の課題のひとつです。
Sustainability (継続性)
このサステナビリティというのは、元々は、ワーカーが個別にオフィスを借りて電気や水道などのエネルギーを消費するのではなくて、共用スペースを共同利用することでエネルギー消費を抑え、以って環境保全に寄与することで継続性のある社会を実現する、という趣旨です。
ですが、ぼくはもうひとつの意味を読み取っています。
ここまでお読みいただいた方はもうお判りでしょうが、上記のようなコワーキングの価値を提供することでローカル(地元)を活性化すると、たとえ今は人口減でいずれ消滅するかもしれないと危惧しているとしても、その地域の内外のコワーカーのさまざまな活動をサポートすることで、そのローカルを維持継続することが可能になる、という意味に捉えています。
そのためには、まずコワーキングをローカルコミュニティとして運営していなければなりません。そして、同じベクトルを目指している他のコワーキングとも連携し、地域外からやってくるリモートワーカーも受け入れ、つなげ、単独ではなし得ない価値を生み出すことで、より持続性のあるローカルが実現すると考えています。
コワーキングはただの作業場では決してありません。この5つの価値をワーカーに提供するためにあるということを、コワーキングも、そしてワーカーも弁えておきたいものです。
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(Cover Photo by Papaioannou Kostas on Unsplash)
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