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おでこ見せたらすぐ売れる

「もうええわ!どうもありがとうございましたー」

 「…」

「よろしくお願いします」

 「…いや、まぁ、ネタはいいんだけど、んー、ボケの子、おでこ見せた方がいいね」

「…おでこ、ですか」

 「その、目が隠れてる髪型は、なにか、意味がある感じなんかな?」

「いえ、とくに、伸ばしっぱなしって感じですね」

 「あぁ、じゃあまぁ、んー、同じことやっててもね、おでこ見せた途端に売れるパターン、ほんまにあるからね」

「あ、はい、わかりました」

 「うん、でも、ネタはすごくいいと思うよ、だからこそ、もったいないなって思って」

「あ、ありがとうございます!」

 「はい、以上です、じゃあまた1週間後か、どうする?ネタは直しないけど」

「あ、1週間後も、お願いします」

 「はい、じゃあ1週間後、お願いしますー」

「お願いします!失礼します!」


「もうええわ!どうもありがとうございましたー」

 「…」

「よろしくお願いします」

 「その、よろしくお願いしますっていうのは、どこから、どこで、喋ってるの?」

「…はい?」

 「怖いのよ、怖いです、すごく、ずっと怖かったこの5分間、うん、ずっと怖くて、いまも怖い」

「…えーっと」

 「おでこ」

「あっはい、おでこ、見せてきました」

 「おでこだけやん」

「はい」

 「おでこの部分しかないやん」

「はい」

 「はいじゃなくて、どこから出てんのそのはいという声は?怖いって」

「はい」

 「はいじゃなくて、それはなに?整形?なに?」

「いえ、整形というか、売れるために、おでこを見せてきました」

 「売れへんよ、そんな怪物」

「怪物?」

 「相方はどう思ってんの?君がいちばん怖いかも、こんなんと普通によう漫才やれるね」

「こんなん?こんなんってなんですか?」

 「熱いのいらんよ、相方を馬鹿にされて熱いのほんまいらんのよ今、相方が胴体に、っていうか首の上におでこだけ乗せて現れたときに君はどう感じたの?」

「確かに、売れそうだなと」

 「嘘つけ、売れるかこんなん」

「こんなんって」

 「熱いのええのよマジで」

「…」

 「…なんしてんの」

「…確かに、相方ちょっと熱ありますね」

 「なんやそれ、自分のおでこと相方に手あてて、確かに相方ちょっと熱ありますね、ってなんや?確かにってなんや?一言でも俺が相方ちょっと熱あるんちゃうか?って言うたか?」

「確かに」

 「確かにって言うなもう」

「はい」

 「はいってどっから鳴ってんのそれ?でこよ」

「はい、でこです」

 「はい、でこです、ってなんや?君らふざけてんのか?」

「「ダメ出しお願いします」」

 「同時に喋んなキショイ」

「「ダメ出しお願いします」」

 「ネタは直す前の方がよかったよ」

「「…」」

 「なんで変えたの?ネタはすごくいいって言ったよね前?」

「確かに」

「はい」

 「本番3日後やけど、どうすんの?」

「そうですね、相方だけこんなにおでこ見せてバランス悪いと思うんで、僕ももっとおでこだけ見せて、でこでこコンビ」

 「おい」

「でこでこコンビになって、」

 「でこでこコンビってなんや」

「どーもー、でことでこで、でこでこコンビでーす!って出ていって」

 「おい」

「自分と相方に手を当てて、3秒くらい間をあけることでお客さんの注目を高めて、熱あるやないか、って相方をペチンって叩くっていうツカミをやろうかと思います」

 「…」

「…」

「…」

 「…んー」

「あ、じゃあ、その、熱あるやないかってはたかれたあとに僕が、ポケットから冷えピタを出して貼るっていうのは」

 「小道具は冷めるなあ」

「はい」

「確かに」

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