想像妊娠中

短距離走とかで使われるデジタルのあれが遠くに見えて、カウントダウンをしている。なにやら残り5分を切っている。

つい彼との思い出に飛び込んで、10時の高さまで来た。手柄山遊園。小さな観覧車。大人1人だとスッポリって感じ。彼と来たときはギュウギュウでそれもまたドキドキってな感じだったね。まぁ今も1人っていうか2人だけどね。5年後くらいにまた乗ろうね。

子どもだましのお化け屋敷、見えやすい高い外壁に白雪姫の魔女みたいなのが見る者に覆いかぶさるようにデカデカと描かれていて、その上には［スリラー館］というゴシック体。その右には包帯ぐるぐる巻きで剣と盾を持った敵か味方かなナイトがその魔女に立ち向かっている。中に入るとガチの日本幽霊とかが出てきて外国幽霊だと思ってたからそういう意味でも子どもだましなんだけど、ともかくその屋敷の屋根の部分が丸見えになってきた。屋根というかなんにも無い真っ平らなコンクリの屋上。こんなものを我が子に見せる未来、それもまた教育かな〜なんていたい！？

痛い！

確かに痛い！

いたいいたいたいたいたいたいたいたい！！！！

窓から彼の住む集合住宅が見えた。もうてっぺんを過ぎたらしい。彼にも家族があって、別れを選んだあなたは正しい。きっと。それでも選んでほしかった。

出産の痛みはいろんなものに例えられて脅されてきたけど、ぜんぜん耐えられるな。耐えられるようになってきた。これが愛の力ってやつかな。わずかなチクチクはあるが、お腹になんもないみたい。タイムショックみたいに高速360度回転していて痛みの点を分散してくれている感覚に近い。わたしと彼の子ならそれくらい優しい。

ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるどーーーーーん！！！！！！！！

痛みがおさまった。

ゼロになった感じ。

なにもかも。

この手で抱いているのにまるで感覚がない。全く体温を感じない。重みも。

というか。

泣いてない。

超高速回転をする「やさしさ」で、目が回っているのかしら。ママは超低速回転なのにね。そんなわけないそんなわけない、生まれてきてくれてありがとう。

気がつくと地面はもうすぐそこで、扉が勝手にひらいた。黒い知らん男に体を触られた。

「産んだのでアウトです」

そっか。

1ヶ月くらいして10人くらいから連絡があった。

わたしったら900万もらいそびれたらしいの。