屈託のない北斗七星

「見てほら、北斗七星」

そう言って左腕を見せびらかしてきた彼女は屈託のない笑顔で、そればかりに5秒6秒と見惚れていたのですが、

「北斗七星」

ともっかい言われて目を落とすと、彼女が右人差し指でつーつーつーつーと赤い点から赤い点から赤い点から赤い点へと線を引きました。

「綺麗」

彼女は自分で自分の腕を目線より高くに掲げて夜空を見上げるようにそれに見惚れていて、僕は思わず持ち前の変化（へんげ）の術を発動させて容量15kgのドラム式ガス乾燥機になりました。

「（それダニだよ）」

と声に出したつもりが発音されず、順番を間違えた！しくった！と思ったが最後、彼女は目を丸くして腰を抜かし彼女も彼女で声を失った様子でスターバックスの床を這いずり這いずり店を出て行きました。

「（違うんだ！ちょっと君を救いたい気持ちが焦って順番めっちゃ間違えちゃって！ダニって教えてから変化しなきゃいけなかったのにくそっ！今から驚かないでね今からドラム式ガス乾燥機になるけど僕がそうなったら君の敷布団と掛布団をだいたい2時間40分以内に家から持ってきて僕の口に入れてよって！60℃のガス乾燥で一瞬で死滅させてあげるからって！あーバンジョーとカズーイの喋るトイレみたいに喋れるタイプの術だったらよかったのにくそっ！悔しい！あー申し訳ない！3時間スタバにドラム式ガス乾燥機で居座るのは申し訳ない！出禁かも！悔しい悔しいスタバ好きなのに悔しい！そんなスタバとスタバより好きな君を同時に失った！飲み物とかめっちゃこぼしてすみませんほんと！MacBookとか大丈夫ですか濡れてないですか？あーちょっと濡れてるじゃないですかごめんなさい！あーーっていうかオリオン座じゃない…？あれオリオン座だった！北斗七星じゃなくてオリオン座だった！カワイイ！！カワイすぎた！！）」