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小指を立てたホテルマン

「お金のためだけに働くわけでは無い」と言うのは、スゴく贅沢な環境に身を置く人間の言葉だと思う。だから、心のどこかに一抹の恥ずかしさを感じながら。

「人は働くために生きているのです」
昔アルバイト先のホテルの上司が言っていた言葉がふっと頭をよぎる。猫背でスーツ、磨き上げられた革靴に、反射するほど撫でつけられた髪、銀縁メガネの奥から部下を見下し、お客様のためには身を粉にして働く絵に描いたようなザ・ホテルマン。小指を立ててティーカップを持たせたら似合うだろうなと思っていたら、本当に皿に乗せたレモンティーを飲むような人だった。一方、衣食住はホテルから支給され、半年分の稼ぎを丸ごと持って海外への長期旅行へ繰り出し、すっからかんになってからまたホテルに帰ってくる、「働く」=「効率よくお金を稼ぐ」ことであり、賃金の高い日本はビザなしで稼げる最高の中継地点くらいに考えていた僕にとって、迷いなくそう言い切る上司の言葉にはハッとさせられるものがあった。
全く相いれない考え方ではあったものの、正解はそれぞれが心に持っていればいい。

 物心つく頃には「バブル崩壊」「大不況」、高校生の頃に「就職氷河期」「山一破綻」などろくでもない言葉が飛び交っていたせいか、就職することに何の魅力も感じなかった。大黒柱がリストラで一家路頭に迷うとか。それよりも「手に職」自分の才覚で、自分のペースで、と言われていた時代。
 その影響か未だに就職することは恐怖でしかなく、1つの仕事を生活の中心に置く事より、細い柱を何本も立て1本が折れても他の柱(仕事)で何とか生き抜くことにした。
 まず始めたのがチャイ屋。インドで毎朝飲んでいたミルクティーを作ってイベントでモグリで売り歩いた。1杯200円で1日の売り上げは2万円程度。入場料や交通費、仕込み代でほとんどトントンだったけどこれで遊ぶのにお金はかからなくなった。
 そしてパフォーマンス。今でこそ生活の大きな柱になっているけど始めた当初はお金をもらえることにビックリ!という状態。こっちは好きでやらせてもらっているだけなのに。(ただしコロナの影響で今は以前の3分の1以下に、、、他の柱を補強してしのいでいる)
 いつか自分の住む家を自分で作りたい。との思いからパフォーマンスのないときは大工さんのお手伝いに。勉強できて収入にもなる。未だ自分の家づくりには着手できていないものの10年以上続けていると出来ることはどんどん増える。
 大学講師。ゲストハウス経営。そのほか人の手が欲しいところへはどんどん出かけるなどして生活はどういうわけだか成り立っている。

よく目にする「好きなことをやって生きる」
僕もよく言われるし、そうやって生きている自覚もある。ただそれは「嫌なことをやらない」生き方ではないし、毎月決まった収入(安心)がある生き方でもない。今日明日の心配は無くても、10年後の事を考えると不安になる。もちろん10年前も同じ事を思っていたのだけど。

そして、最初に出てきた上司の言葉

人は働くために生きているのです。

「生き方」とは「働き方」とも言い換えることが出来るなら。上司は「働く」と言っているだけで、根本ではつながっているのかもしれないとも思う。

「いいや違う」と叫ぶ僕もいる。

#私らしいはたらき方

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