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【北京随想】骨董市場で売り込みの農民と間違えられた話

30年前の話、
北京大学に滞在していた頃、しばしば骨董市場に足を運んだ。

骨董に目が利くわけではない。
財力があったわけでもない。
なんとなく興味があって、時折ふらりと出かけた。

いや、ふらりではない。
当時、骨董市場へ行くには、かなりの気合いが必要だった。

お目当ての市場は、朝陽区の潘家園にあった。
北京は広い。
西北のはずれにある北京大学からは、かなりの距離がある。

当時、市が立つのは、日曜の午前のみ。
しかも、お昼近くになるといい物はなくなる、と言われて、
早朝、まだあたりが暗いうちに、タクシーに乗って出かけた。

当時は、すべて露天だった。
骨董商たちが、無造作に所狭しと売り物を並べていた。

書画、古書、文房四宝、陶磁器、玉石、刺繍、仏像、置物、茶器、食器、
鼻煙壺、木製家具など。
中には、ナンバープレートや毛沢東のバッジまで。
精緻な芸術品から、わけのわからないガラクタまで、
ありとあらゆるものが並んでいる。

わたしは「皮影」に興味があった。
皮影は、中国の伝統的な影絵芝居に用いられる人形。
牛やロバの皮をなめしたものに細かい彫刻と美しい彩色が施されている。

皮影

ぶらぶらとあちこちの店を見て回り、
とある店のご主人と言葉を交わしていると、
「おまえは、買いに来たのか、売りに来たのか?」
と聞かれた。

え、どういう意味だ?
すぐにはピンとこなかったが、聞いたところ、
周辺の農民が、近郊の廃墟や廃屋から家具や彫刻を盗み出して、
骨董商に売り込む、ということがよくあるらしい。
どうやら、わたしはそうした農民と間違えられたようだ。

ようやく言葉も身なりも地元っぽくなってきたということか、
悪い気はしなかった。

市場は、「潘家園旧貨市場」として今も健在だ。
ネットの写真を見ると、規模は遥かに大きくなり、
屋内の売り場は妙に整然としている。
近くに「北京古玩城」という高級バージョンもできた。
まるでショッピングモールだ。

北京古玩城

う~ん、どこか違う。
あの怪しげでカオスな空間が懐かしい。



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