【中国の思想と文化】王陽明の「狂」について――明代後期の思想における「狂」の諸相(一)
要旨
明代後期の中国思想界において重要な位置を占める王陽明は、思想家として、講学者としての己の姿勢を示す上で、しばしば「狂」字を用いた。
「狂」の概念は、伝統的な儒家の精神文化を担うものであるが、王陽明にとっては、当時支配的であった朱子学から自立し、「良知」に従った新たな倫理体系を構築する上でのスローガン的な役割を果たした概念であった。
「狂者の胸次」に至ったことを宣言した王陽明は、世人から「狂を病み心を喪う」者と嘲笑されたその「狂」を以て自ら任じ、「狂者」を聖人