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「女性役員市場」の現状と今後

役員、と聞いてみなさん何をイメージされるでしょうか。
町内会やマンション、PTAの役員、という方もおられるかもしれません。
ここで対象とするのは、上場企業や上場を目指している企業の役員で、その中でも内部昇格ではなく、また、非常勤の「社外役員」です。
経済産業省の調査によると、社外取締役としては経営経験者、弁護士、公認会計士/税理士、 金融機関、学者など様々な属性の方がおられるとのことです。
https://www.meti.go.jp/press/2020/07/20200731004/20200731004-3.pdf

非常勤の社外役員の仕事ぶりについては後述しますが、月1‐2回、1回2時間程度の取締役会、監査役会、経営会議などに出席して意見を述べる、というのが主なお仕事になります。あまり自ら手を動かすことは少ないです。
それでいくらもらえるの?というところに皆さん興味があると思いますが、大手監査法人デロイトトーマツの2022年調査『役員報酬サーベイ(2022年度版)』によると、社外取締役の報酬の中央値は840万円で上昇傾向にあるとのことです。月にすると70万円ですね。2回の会議×2時間=4時間で、事前に資料を読む時間など入れて10時間とすれば、時給7万円ですね(!)
ただ、こちらの調査は対象が「プライム」の企業なので、スタンダードやグロースの会社だと肌感としてもう少し下がるように思います。地域差もありそうです。
ちなみに私は社外役員の月額報酬300万という人がいると聞いたことがあります。
https://www2.deloitte.com/jp/ja/pages/about-deloitte/articles/news-releases/nr20221027-3.html

実は、いま社外役員に女性をというのはホットなトピックです。なぜなんでしょうか。一介の私のような会計士のところにも、「こんなお話があるんですが、いかがでしょう」という連絡が来るくらいなので相当皆さん探されているんだと思います。このムーブの現状と今後について、就任した経験を踏まえて考えてみたいと思います。事情をご存じの方は知っているところをスキップしながらでもお読みいただければ幸いです。

今なぜ女性役員が求められているのか

少子高齢化による労働力の減少、バブル崩壊後の経済低迷を打開するため、政府は女性の活躍機会を増やし男女平等に社会参画できる機会を作ると同時に、労働人口の確保のため女性を活躍させようという施策をとりました。
1999年に「男女共同参画基本法 」が施行され、政府は2003年に、「2020年までに、社会のあらゆる分野において指導的地位に女性が占める割合が、少なくとも30%程度となるよう期待する」という、「2020年30%」目標を設定し、企業も女性管理職登用を進めてきましたが、ご存じの通り達成せず。
帝国データバンクの調査では、2020年7月で女性管理職比率は7.8%<<<30%、という状況とのこと。管理職で8%だったら役員なんてもっと低いですよね。

https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/pdf/p200803.pdf


女性管理職の比率や賃金格差がある現状、それを開示させることで改善しようという考えのもと、厚労省より従業員301人以上の会社に開示義務が課されました。
金融庁も連携し、企業の決算を開示する「有価証券報告書」においても開示することになりました。
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000962289.pdf

もともと、有価証券報告書の「役員の状況」という項にも、女性役員の数を記載する義務があったのですが、しれっと「ゼロ」で毎年開示していた企業も多数ありました。
しかし、日本はジェンダー平等指数が下位であることは世界的にも知られていて、だんだん外圧もかかっています。
2023年4月の日経新聞によると、ノルウェー銀行インベストメント・マネジメント(NBIM。北海油田の石油収入を積み立てるノルウェー政府年金基金の運用を担う)は2023年から女性取締役がいない日本企業の議案に反対票を投じる方針を示したそうです。

企業の役員人事は、2023年6月の総会就任であれば1年以上前から動く、と聞いていたのですが、そんなこんなもあってか、2023年に入ってからも、エージェントさんから「取締役(監査役)に就任いただける女性を探しています」という連絡が来る状態です。
この前は4月にそんなお話があり、え?来年じゃなくて今年の総会で就任する方をこのタイミングで探しているんですか?と驚きました。
さすがに女性役員入れないとまずいだろう的な話があったのかなかったのかわかりませんが・・・・

女性会計士・社外役員のプロフィール例

守秘義務とかいろいろあるのであくまでイメージとご理解ください。いずれも女性の会計士のケースです。

  • 大手監査法人に長期勤務し退職後、3社に就任されているAさん(60代) →3社も兼務すれば年収は役員報酬だけで2000万円前後にはなる(有価証券報告書の役員報酬の項から算出可能。たまに月20万という会社もあるが・・・)。業務は月数回の会議出席が中心で、まだまだハードワークにも耐性があるのにエネルギーがありあまってしまうのか、さらについ大学の講師などを引き受けてしまう(もちろんその分も報酬が入ってくる。)授業があって長期旅行に行けなくなったのよ・・・などとこぼしつつ充実した日々を送っている。仕事がないときは海外旅行や観劇、趣味を楽しむ。※ちなみに、趣味の一環なのか、大変高価で手間のかかるネコを飼っているという人もいました。

  •  メインの業務や、プライベート(介護など)と両立しながら1‐2社就任するBさん(40~50代) →メイン業務は常勤の役員だったり、自身の経営する会社や会計事務所だったり、業界団体の活動だったりする。ダブルインカムだったり、独身の場合でもメイン業務だけで生きていけるくらいの収入はあるが(年収800万以上のイメージ)、仕事の幅を広げるため、あるいはメイン業務との相乗効果がある先と兼務する。まだまだキャリア構築は途上であり、仕事重視の毎日。それでも、監査法人時代のプレッシャーと激務さとは比較にならないほどで、むしろ、得られるトータルの年収は上がるケースもあります。監査法人ではパートナーになっても初めのほうは年収1500万~と言われているので、2社も兼務すれば超えそうですね。

  • 家庭重視、無理せず、ご縁があった先に1‐2社就任するCさん(30代~40代)→ 社長が30代40代など若手の場合、また、業種的にITを駆使するなど、社外役員に若い方をと希望されるケースがある。バックボーンは監査法人における基本的なトレーニングであり他の方との差別化が難しいのと、案件の絶対数は多くない割に就任希望者は多いため、なかなか狙って就任するのは難しい。社長が知人である、地方の会社で他に適切な女性役員候補が見つからないといったご縁により就任するケースが多い。上述の通り2社就任しても拘束時間はせいぜい月20時間程度でまとまった報酬がはいるという意味で効率的な働き方といえる。(もちろん就任すれば訴訟を受けるリスクがあるし、社外取締役の場合任期は1年の場合もあるなど任期があるため、ずっとその生活が保障されているわけではない。)

日本取引所グループによると2023年5月2日時点で上場会社は3884社あります(東京プロマーケット含む)。プライム、スタンダード、グロースと区分はあるものの、売上高何兆円から10億円の会社まであるので、役員といってもニーズは多様化しているように思います。

なお、従事時間に自己研鑽の学習時間は含まれていません。それが一番肝かもですね。これもまた別途。

就任打診から決定まで

上場会社の役員というと熾烈な競争を勝ち抜いたエリートというイメージがありますが、会社もプライムからグロースまでありますし、社外会計士役員も、全員がそんな超エリートというわけでもないように思われます。
面接でみられているのは①「どこからの紹介か」②「本人の経歴」③「お人柄」④「役員会に参加できる日程の余裕があるか」 のように思っています。

①どこからの紹介か
ときどき、役員募集の案件をエージェントの検索できるサイトにオープンに載せておられる会社様があって驚くことがありますが、そういうのはごく少数で、大体の案件はクローズド、コンフィデンシャル案件となっています。なので、ファーストコンタクトはほぼ、誰かからの紹介です。
エージェントの場合もあり、会計士のだれだれ先生のご紹介というケースもあります。後者の場合、ご本人は面接のつもりで行ってみたら、面接は形だけで、いきなり④の日程の話になることもあるのだとか。
どんなエージェントがあるのかという話は別途。

②本人の経歴
職務経歴書で今までの自分の棚卸をやります。これは別途書こうと思います

③お人柄
①②がなくて人柄だけで決まることはないので、相性が合う先かどうかをお見合いする感じです。
会社の中には、残念ながら、「役員会では社外役員にあまり発言してほしくない」とお考えの先も実際あるようです。そういう先の役員面接で持論を滔々と述べたりすると落とされてしまいます。もちろんその逆のほうが多いのですが・・・
また、本当に良い方なのですが昼行燈のような先生(男性です)が何社も社外役員に就任されているのに対し、舌鋒鋭い先生はどこからもお話が来ないという話を聞いたこともあり、まさに「お人柄」が重視されているんだろうなと思ってしまいました。

④日程
そんなことで・・・と思うのですが、大変重要なファクターです。どれだけ素晴らしい人材であっても、特に兼務の場合は株主総会や役員会の日程が他社と重なっているという理由で就任できないことがあります。

様々な関与

非常勤の社外役員のうち、社外取締役と社外監査役では関与の仕方が異なります。

取締役が出席が求められる会議体(監査役会の場合)

  1. 株主総会(法定、通常年1回)

  2. 取締役会(法定、通常月1回+決算取締役会が4回)

  3. 経営会議(任意、月1‐2回が多い)

  4. その他任意の会議

機関投資家との面談や役員同士の面談もあります。内容は経営・マネジメントよりです。

監査役が出席が求められる会議体(監査役会の場合)

  1. 株主総会(法定、通常年1回)

  2. 取締役会(法定、通常月1回+決算取締役会が4回)

  3. 監査法人との連携(必須、年5回~)

  4. 内部監査人との連携(必須、年3回~)

  5. その他任意の会議

管理・経理部門との面談や役員同士の面談もあります。会計士の場合、内容は会計やガバナンスよりの話が多いです。
あとは報酬委員会や指名委員会など、監査役会設置会社でも任意の委員会を設置されている場合はそちらへの参加が必須となります。

会議体への参加の仕方は各社様々なようです。
取締役会や監査役会の前に、事前の会議でフリートークを行い、疑問点を解消したり、意見が必要な時は誰からどのように意見するかを調整してから法定の会議に臨むという話も聞きます。
都市伝説的に聞いて驚いたのは、監査役はオブザーバー扱いで大きな会議室の端っこに集められて黙って議事を聞いているのみだ、という話でした。ほんとでしょうかね。役員だけでも何十人もいたら会議室も大きいでしょうし、議長との距離も遠いでしょう。議事も複雑で、発言もお呼びではないのかもで知れません。そんな大手の会社に就任した経験がないのでわかりませんが、いかにも尊重されてなさそうでやだなあと思ってしまいました(そういう先からはそもそも話が来ないので余計な心配だと思いますが)

任意の関与についても各社様々で、よく聞くものとしては、女性取締役の場合は会社の設置する女性活躍系の会議やダイバーシティー関係の委員会にオブザーバーとして参加されている方もいます。監査役の場合は拠点・子会社の内部監査や監査法人の監査時に同行するケースもあるようです。会社側から依頼がある場合と、役員側から働きかける場合があります。報酬や社外役員への期待値にもよるように思いますが、会社だけでなく株主の利益のために動くというのが本分ですので、そのために必要と判断したことは自分から働きかけて実施していく必要があります。この辺まだまだ勉強中です。

他の方と意見交換すると、会計士は社外監査役として就任するほうが、数値に関する情報が入ってきやすく会社の全貌がつかみやすいという意見をよく聞きます。もともと監査法人にいるときは監査役への説明を行っていますし、役割分担的に監査役のほうがしっくりくるのかもしれません。
しかし逆に取締役の方は会計監査の情報なしに経営に関する意思決定をしてよいのかなと心配になります(またまた余計なお世話)。
役割分担なのでしょうが、なんだかんだ言って経営には数値が不可欠であり、例えば最近話題になっている新しいリース会計がどのように経営に影響するかとかそういうのは当然知ってないといけないんじゃないかなあと思ったりするので、社外取締役にも会計士(あるいは会計に詳しい方)が一人は必要なのではないかと考える次第です。

出口戦略

社外役員コスパいいよね、と、私自身思っていましたし、就任された方がすごくうらやましい時期がありました。
いま、就任できたから言うってわけでもないんですが、言いたいこととしては、あんまり若いうちから「職業・非常勤役員」みたいになってしまうとかえってご自身の成長が止まってしまうのではないかなということです。

おばさんの寝言と言われるかもですが・・・・
やっぱり数回の会議にでて、ご意見を拝聴されるだけで、厳しいフィードバックを受ける機会が少ないってよほど本人がしっかりしてないと成長しないよなあと。

若いうちなら執行に戻るというのも選択肢だと思っています。
50代でプライムの会社の非常勤監査役(監査等委員)3社やっている知人がおりますが、次どうしようか悩むなあという話をされていました。
それこそ年収2000万コースですし非常にぜいたくな悩みだと思います。そんなに悩まなくても監査役だったら2期やれば60歳前後なので、しっかり蓄財して後は好きなことしたらいいんじゃないかと思うのですが、そういう方はそもそも止まったら死んじゃうのですね。だからって執行に戻るのはさすがにしんどい。月数回の会議生活を何年も送ると手が動かない人になってしまいそう。
となると、3社やりつつ、1つ任期が切れそうになったら次を探して回転していく、というのが一番効率はよさそうですが、非常勤の役員報酬を生活の糧にしてしまうのは私自身はやりたくないなあと思っています。言いたいこと言えなくなりそうですし。
地主本業+非常勤役員+趣味に生きるのがよいと思う方もいれば、ビジネスが面白い方にはかえって味気ないかもしれません。まさに、自分が今後どう生きていくかという話でした。
人生100年時代、年齢によっては「その後」のことを考える必要がありそうです。



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