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【看販会特別レポート】『患者さんのため、看護師としてひとつ上のケアを提供したい』診療看護師が医療現場で果たす役割と看護の未来(後編)

診療看護師(NP)は特定行為*を含む診療の補助行為を、医師の不在時でも包括的指示のもと自らの判断で実施できる看護師です。資格取得には看護師として5年以上勤務し、指定大学院で2年間就学したのち、日本NP教育大学院協議会の認定試験に合格する必要があります。現在417名の診療看護師が全国で勤務しており(2019年4月現在)、今回は戸塚共立第1病院(神奈川県)の診療看護師4年目、Mさんにお話しをうかがいました。

*特定行為とは診療の補助のうち、実践的な理解力、思考力および判断力ならびに高度かつ専門的な知識および技能が特に必要とされる行為。21区分38行為が該当する。

【診療看護師のやりがい、大事なこと】

患者さんへ一貫して関われる、看護師としての喜び

-大変な業務ではありますが、診療看護師のやりがいはどういった部分でしょうか?-
 
一般の看護師と異なる点として、患者さんの外来、入院、退院、その後の通院まで一貫して関われることが大きいと思っています。

当然看護師ではあるので、常に患者さんの一番近くにいます。さまざまな患者さんと関わっていて、また多職種とのつながりもとても多いです

多職種の人は診療看護師から患者さんの情報を得て、自分たちは多職種から専門性の高い情報を得て、患者さんのケアに還元できます。これがやりがいにもつながっていると思います。

また診療看護師は病院内のどこでも、例えば検査室や手術室も行ける立場なので、さまざまな情報をもっていることも強みであり、これもやりがいになっています。

-診療看護師として大事にしていることはありますか?-

専門分野で働いているひとたちと関わるので、自分を信用してもらうために勉強は怠りません。専門的なことまでではありませんが、すべての分野の知識はある程度持っていないといけないと思っています。

また、お願いされたことはできるだけ対応するようにしています。いざ自分がお願いする立場になったときに対応していただけるようになりますし。

-診療看護師として嬉しかったエピソードはありますか?-

点滴がなかなか入らない患者さんがいたのですが、担当医師が「Mさんなら一発で入れてくれるよ」と自分を指名してくれたことがありました。その患者さんとは入院してからも回診などで会うことが多くなり、信頼を得ることもできました。

患者さんに一連の流れで関われることができて、退院後にも外来で元気な姿を見られることは幸せでした。患者さん、医師から信頼を得られたのだなと感じた瞬間です。

-ちなみに点滴は一発ではいったのですか?-

プレッシャーはかなり感じましたが、なんとか一発で入れられました(笑)


基本は医学。自己学習と多職種からの学びも

-常に勉強は怠らないようにしているということですが、具体的な学習法を教えてください-

 成書と呼ばれる定番の医学書を読んで勉強をしています。点滴などのテクニックは同僚にお願いしてトレーニングをしたりしますね。

看護師のときは看護雑誌や看護書を読んでいましたが、診療看護師になってからは雑誌も医学雑誌をよく読むようになりました。医学雑誌のほうが解剖など細かく表記されているので、勉強になります。

-医学書はどのようなタイトルの本を購入されますか?-

医師向けの本は難しいので、研修医にむけた本を選んで読むことが多いですね。学生時代にも教科書は医学書でしたし、自分で購入した本も画像診断や検査、解剖とすべて医学書です。

実習先に合わせて、循環器や心電図、心エコーなど専門の医学書も購入していましたね。当院で総合診療科にいたときは、総合診療の雑誌を読んでいました。

新しい薬剤の情報は製薬会社のMRや薬剤師からもらいます。当院の薬剤師は若い人が多いので自分も話がしやすく、よく情報交換をします。薬剤師には患者さんの情報を共有し、自分は薬剤の情報をもらっています

-専門家からもらう情報は確実ですし、相手もMさんから聞ける正確な情報を頼りにしているのですね-

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【診療看護師の理想像と未来】

「謙虚」「人を好きであること」

-Mさんが診療看護師として仕事をするうえで、大切にしている言葉はありますか?-

大学院の教室の一番前に額縁に入った「謙虚」という言葉がありました。

診療看護師は看護師でありながら、医師とカンファレンスをし、薬剤師とも対等に話す、一般の看護師とは違う業務内容になります。

当然そのために勉強をして資格を取っているのですが、自分は他の看護師に比べてできるのだと勘違いすることがあります。教員からはそれは絶対に気をつけなさい、常に謙虚であることを心に思いなさい、と言われました。

診療看護師という新しい職業(資格)を受け入れてもらうには、謙虚であることがとても大事でそれが信頼にもつながることだと思っています。「謙虚」はいつでも自分の中にある言葉です。

-診療看護師には変わり者が多いという記事を読んだのですが、実際にはどのようなタイプのかたが多いのでしょうか?-

高みを目指す人が多いので、癖は強いですね。変わり者かと聞かれたら、たしかにそうかもしれません。私は違いますが(笑)。

実際に指示に対する対応方法などで医師との衝突も結構ありますが、それはお互いを信頼しあっているからこそです。患者さんのために何ができるのか、常に強い信念を持って仕事をしている人が多いのだと思います。

-Mさんは診療看護師として、今後どのようなことをしていきたいでしょうか?-

診療報酬の問題など診療看護師全体のことは考えられませんが、診療看護師の役割が非常に重要であることは広めていきたいと思っています。

知識やエビデンス、経験をもとに多職種と連携できることが診療看護師の強みです。その活動について学会などを通じて全国へ発信していきたいと思っています。

-最後に、診療看護師を目指すかたへのメッセージをお願いいたします-

新しいことを始めるのは怖いし、一歩を踏み出すことの不安は大きいと思います。でも勇気を出してやってみると、いままで感じなかった感覚がうまれ、自分自身が大きく成長できていることを実感するはずです。

このような人が診療看護師に向いている、ということで言えば、「人が好き」ということが一番大事だと思っています。

自分たちの仕事は人があってこそ。誰かに何かをしたい、誰かのためになりたいと思える人であれば診療看護師に向いていると思います。その思いがあれば、大変なことがあってもこれは患者さんのためになるからと、乗り越えられるはずです。

当院にも診療看護師を目指そうという看護師が数名います。自分たちの活動をみて憧れのようなものを抱いてくれたのであれば、とてもうれしく思います。

-ありがとうございました。-


インタビューをおえて

Mさんのお話を伺い、本当に看護が好きで常に患者さんの力になりたいと思っていることがわかりました。だからこそ、もっと勉強をし、自身の力で患者さんに元気になってもらいたいという強い信念があるのだと感じました。

様々な職種のかたと意見交換をし実践をする診療看護師は、それぞれの分野の知識を持つ必要があります。知識をもつことが信頼につながり、それが結果的に患者さんへ最もよいケアを提供できる。そう穏やかに話されるMさんの奥底にある力強さを感じた瞬間でした。

インタビュー中は落ち着いて淡々と話すMさんでしたが、その後のメールのやりとりで緊張されていたことがわかりました。それを微塵も感じさせないところが、回りの人に安心感を与えているのだと納得しました。

Mさん、お忙しい中、本当にありがとうございました。またこのインタビューをセッティングしてくださった、もう一人のMさんにも感謝申し上げます。

日本NP教育大学院協議会ホームページ

https://www.jonpf.jp/

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