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人体のふしぎ 〜うちのじい様〜

今年の年明けから私たち夫婦は、私のじい様と同居している。じい様はそれは大変なプレイボーイだったそうである。若かりし頃の写真は確かにイケメンだった。今でこそ90歳近いご高齢で動きはスローだけれど、会話に洒落を欠かさない、イカしたじい様である。

そんなじい様にまつわる話を、ふたつ。

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じい様、器がデカい。

まず、同居した経緯について。

昨年、今の夫にプロポーズされ、話し合いの末私は仕事を辞めてパート主婦になった。ところが当時の住まいは共働き前提の家。私は家事なんてほぼしていなかったので主婦の知恵は皆無。節約ってなんぞ?世帯収入が約半分になった我が家の家計は火の車になった。

夫はすぐ転職を決意。その間に私は安い住まいを探し始めた。

この時私たち夫婦の精神は削られまくり、霧散しかけていた。計画性を持って動けばよかっただけの話であるが、私たち夫婦はノリとタイミングで生きているので計画性はあまりない。今を生きているのさ!

とにかくしんどかった。あまり思い出したくはない。

そんな折、入籍だけは先に済ませ、じい様に挨拶に行った。そこでボロ切れ状態の私たちを見たじい様が

「2階が空いてるから使えばいいじゃない」と提案してくれたのである。

じい様家の2階は元々私と家族が住んでいたのだが、私と弟が大きくなったので、中学生の時に各自の部屋を確保するためにすぐ近くに引っ越した。で、空いた次第。

じい様曰くまったく使っていない2階がもったいないから、とのことだったが、実家から近いとは言えたまにしか会わない孫と、初めて会った孫の夫に手を差し伸べてくれたのは、本当にありがたかった。じい様器がデカすぎる。

そんなわけですぐ引っ越しの準備を進めて、1ヶ月後にはじい様の家を間借りさせてもらうことになったわけである。

ちなみに、だらだら過ごしてきたせいで私に対する父の信用度はほぼゼロだったので、引っ越しを決める前にかなーり辛辣なLINEが飛んできたのもあまり思い出したくはない。使えない部下に送る最後通告の文章だよあれ…。


じい様、驚異の回復力。

私たち夫婦の両親に事情を説明し、晴れてじい様との同居生活がスタートしたわけだが、引越し前にした父との約束は、じい様の世話を全てする、というものだった。住まわせてもらっているのだからまあ当たり前である。

でも住み始めてビックリした。世話なんて、何もすることがないのだ。じい様は元気なのである。

ばあ様が早くに亡くなったので、15年くらい一人暮らしをしているわけだ。家事は私よりもベテランである。

本人もいろいろ思うところがあるのか、料理を作るよ、ゴミは出すよ、と言っても自分でやると言う。身体に負担のかかる掃除もホームヘルパーさんが来てくれているので何の問題もない。本当に、何もすることがない。

ボケてきているので、忘れている痕跡を発見したらフォローするか、共用スペースの掃除などはやられる前にやってしまうくらい。

それでも約束は約束、やった方がいいのかと考えた末、結局やめた。お茶の友として話し相手になることにした。そしたらすごいことが起こったのである。

本人も自覚があるようだが、両親から聞くにはどんどんボケてきていたらしい。同じことを何回も聞き、昨日話したことを忘れてまた話し、会話は少なくなり、近しい者の顔と名前も忘れていた。久々に会った時は私のことも分からなかった(これは化粧のせいもある。そうに違いない)。

そんなじい様のもの覚えが、急によくなったのだ。

以前話したことを忘れず、会話に進展が見られるようになった。カレンダーを毎日見ていた家族の誕生日は、見なくてもわかるようになった。昔のことをどんどん思い出して、よく話してくれるようになった。テレビの話にも興味が沸き、雑談も弾む。少しずつだけど、ボケが治ってきているようなのだ。

笑顔も明らかに増えたらしい。これは私には分からなかったが、周りから見て明らかだったから、そうなのだろう。すごいことだ。ただ話しているだけなのに。

私たち夫婦と話すことでそうなっているのなら、孫としては嬉しい限りである。夫も引っ越してきて良かったと喜んでくれていた。

さらにビックリしたことがあった。

先日いつものように自転車で郵便局へ出かけた際、忘れ物をしたらしい。家に戻ろうとした時に転んでしまったそうだ。元気とはいえ90歳近いので、ただ転んでも命取り。これはヒヤッとした。本人に任せすぎたと反省し、付き添うか、夫がいる日は車で送ってもらおうと思った(私は免許を持っていない)。

幸い擦り傷とアザができたくらいで済んだのだが、念のため湿布を貼って様子を見た。すると。

2日後にはもうすっかり治っていたのだ。アザはどこへ行ったのか。擦り傷もほぼない。綺麗さっぱり。私よりも治りが早い。

これはいったいどういうことなのか…毎日運動してるからだな!と本人は笑っていたけど、本当にそれだけなのか…?

こんなに元気なじい様もそうそういないけど、さすがに人間離れしている気がする。自動回復スキル(強)でも持っているんじゃないかと密かに思った。ともかく何事もなくて安心した今日この頃である。

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そんなイカしたじい様にまつわる話はけっこうあるので、ちょいちょい書いていこうと思う。今日はこれでおしまい。

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