アンコウの七つ道具とは何か
アンコウはほとんど捨てるところがない魚です。
頭と背骨以外は全て食べられます。
頭と背骨でさえ出汁を取るのに使われます。
解体した部位は、「アンコウの七つ道具」と呼ばれています。
その七つとは、ヤナギ、カワ、水袋、キモ、ヌノ、エラ、トモです。
ヤナギは、アンコウの身の肉のことです。台身とも言います。
透き通るような美しい薄いピンク色をした白身です。
もともとは頬の部分の身がヤナギの葉のような形をしているので
ヤナギと呼ばれていました。
今では頬以外の身もヤナギと呼ぶようになりました。
いわゆるサクの部分です。
カワは、もちろん皮です。
ゼラチン質がたっぷりで、煮こごりにすると美味しいです。
ぬめりがあるので、捌くときは滑らないようにさらし布を使います。
切り込みを入れたところをさらし布でつかんで一気に引きはがします。
水袋は、胃袋のことです。アンコウの胃は巨大です。
海底に潜んでいて、近づく獲物を何でも丸呑みにするからです。
胃の他に消化器官がないのかと思えるほどの大きさです。
捌くと胃の中からいろいろな魚介類が出てきます。
ときにはサメやカモメまで出てくることもあるそうです。
海底のアンコウがどうやってカモメを呑み込むのか不思議です。
キモは、肝臓です。通称「あん肝」と呼ばれています。
アンコウの七つ道具の中でも特に珍重されています。
酒蒸しにしてポン酢でいただくと絶品です。
その美味しさは「海のフォアグラ」とも称されています。
ヌノは、卵巣のことです。メスにしかありません。
通常の魚卵は、タラコにしてもスジコにしても袋状ですが、
アンコウの卵は、まるで一枚の布のように広がっています。
エラは、もちろん鰓(えら)のことです。
魚のエラは普通食べませんが、アンコウのエラはとても軟らかです。
その形状とクセのある食感からやや敬遠されがちですが、
あんこう鍋に入れるとよい出汁が取れます。
トモは、ヒレのことです。
尾ビレや腹ビレもトモですが、主に胸ビレのことを指します。
体の左右にはまるで手のような大きな胸ビレがついています。
吊るし切りにするときは、まず最初にこれを切り外します。
胸ビレの付け根のところは特に美味しい部位です。
アンコウの七つ道具はそれぞれに個性がありますが、
あんこう鍋を作るときはその全てが使われます。
野菜と一緒に煮込むと渾然一体となった旨さが味わえます。
近年は醤油仕立てのあっさりした鍋も好まれていますが、
もともとは味噌仕立ての郷土料理でした。
やはりアンコウ独特の風味には味噌の方がよく合うと思います。
あくまで個人的な好みですが。
あんこう鍋の原型は、「どぶ汁」にあると言われています。
どぶ汁は、漁師が船の上で作っていた鍋料理です。
アンコウは水気の多い魚なので、鍋に水を加えず、
野菜とアンコウの水分だけで作るそうです。
どぶ汁とは何とも変わった名前ですが、
あん肝が溶けて汁が濁ることから名づけられました。
いかにもアンコウらしい気取らない命名だと思います。
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