三日とろろ
三日とろろとは、お正月の三日にとろろを食べる習慣のことです。
この日にとろろを食べると無病息災で一年を過ごせると伝えられています。
また、お正月のご馳走をたくさん食べて胃も疲れているでしょうから、消化の良いとろろで胃を癒してくださいという意味もあるそうです。
私の生まれ故郷の福島に古くから伝わる風習ですが、福島だけでなく、東北地方、関東地方、中部地方の各地に残っているお正月の行事です。
私は以前、拙著「四季の菜摘み」にも書きましたが、貧しい時代の農村に胃が疲れるほどのご馳走が本当にあったのかと疑問に思っています。
むしろお正月といえども三日目になると食べるものが少なくなり、せいぜいとろろ程度しかなかったのではないかと考えています。
三日とろろを食べると何だか切ない気持ちになります。
ところで今年は東京オリンピックが開催されますが、
57年前にも東京オリンピックがありました。
そのときマラソンランナーとして大活躍したのが円谷幸吉選手です。
銅メダルを獲得して一躍国民的な英雄になりました。
真面目で努力家で愚直なまでに誠実な人柄で知られていますが、陸上選手としての栄光は、残念ながら長く続きませんでした。
次のメキシコシティオリンピックを目指して懸命に努力するものの、不運が続き、思い通りに結果を出すことができませんでした。
周囲の過度の期待の中、挫折や苦悩と必死に戦いますが、最後は力尽き、自らの命を絶ってしまいます。
その円谷幸吉選手が残した遺書の中に三日とろろが出てきます。
「父上様、母上様、三日とろろ美味しゅうございました」と綴っています。
円谷幸吉選手は福島県の出身です。
おそらく正月に帰省して家族と一緒に三日とろろを食べたと思われます。
亡くなったのが1月9日ですから、すでに覚悟を決めていたかもしれません。
どのような気持ちで三日とろろを味わったのでしょうか。
その心情を推し量ると本当に切なくなります。
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